利酒師 毛馬の日本酒だより

毛馬 克紀 プロフィール

57階レストラン「ZK」マネージャー
毛馬 克紀 (Katsunori Kema)

大阪市内のレストランやホテルなどで経験を積む。シニアソムリエを始め、ジュニア・バーテンダー、焼酎利酒師など様々な資格を持ちレストランサービスにおいて精通しているスキルを持つ。2014年に大阪マリオット都ホテル入社。2015年に日本酒 利酒師を取得。


取得資格:シニア ソムリエ / 草月流 師範 / 表千家 飾物五箇条 / ジュニア バーテンダー / 和食検定 実務レベル2級 / 国家検定資格 料飲サービス士 1級 / テーブルマナー講師 西洋料理 / 日本料理食卓作法講師 /調理師 / 焼酎利酒師

2017/11/01号

今回は“車坂”酒蔵見学の様子をお届けいたします。

“車坂”との出会い

10月23日月曜日、“車坂”酒蔵見学に行って参りました。まずは、私が“車坂”を好きになったきっかけからお話いたします。今年の2月頃、割烹居酒屋「れだん」で出されたのが初めての出会いでした。“車坂 山廃純米大吟醸 無濾過生原酒”という山廃で純米大吟醸、そして無濾過で火入れしない、そして原酒?と今まで見たことないスペックにも驚きましたが、「こんなに美味しい日本酒があったのか?」と味わいも衝撃でした。是非「ZK」でも提供したいと思い、店主に仕入れ先を教えていただき、四方八方手を尽くした結果、時間はかかりましたが、何とか「ZK」のリストに載せることが出来ました。そして、再び報告がてら「れだん」へ足を運び、『「日本酒だより 9/15号」の100本目のお酒に“車坂”を掲載します』と店主に報告をいたしました。すると、翌日、“車坂”の営業担当 古井様からお礼のメールをいただきまして、それがご縁で今回の酒蔵見学の運びとなりました。

酒蔵を訪ねて

豊かな自然に恵まれた和歌山県岩出市にある創業100年の酒蔵 吉村秀雄商店。蔵に到着すると、杜氏の藤田 晶子氏に出迎えていただきました。藤田杜氏は、能登杜氏四天王の一人である農口杜氏の愛弟子であり、米の味を生かした旨みたっぷりな酒を造りたいと10年間、農口杜氏の元で修業した若手の有望株です。吉村秀雄商店では今年で5年目です。

大正4年(1915年)創業時に建てられたという土蔵は、想像以上に天井が高く、奥に広がっていました。入ってすぐのところでは、酒造りの最初の工程である洗米、浸漬、蒸米を順を追って藤田杜氏自ら説明をいただきます。初めの工程で一番重要視しているのは米の吸水率です。精米された米を仕入れていますが、米の白米水分がその袋ごとに違うので、袋単位で米の給水時間を計算し、秒単位で洗米・浸漬の作業を行っているそうです。この工程が麹造りがうまくいくかどうかの重要なポイントになっています。

次に案内して頂いたのが、麹室です。普段は一般の人には公開していないエリアですが、今回は麹の仕込みがまだないとのことで特別に拝見させていただきました。酒造りには5人のチームで取り組んでいらっしゃるそうです。藤田杜氏を筆頭に皆様毎日泊まり込みで、酒造りが始まったら、造りが終わる春先までの半年間ほどは、休みなく働き、そして溜まった休みは5月頃から消化するそうです。

そして仕込みタンク、上槽と工程順に見学し、その後なんと地下へと案内されました。酒蔵で地下というのは大変珍しく、そこはワインセラーの様な貯蔵庫でした。夏は涼しく、冬は暖かで空調は使わずに年間を通して17度という、日本酒の熟成にはピッタリな温度が保たれているのです。藤田杜氏の酒造りには「熟成」がキーワードになっており、どのお酒も「熟成」してこそ旨くなる、という信念からこの地下の蔵が存在します。コストや手間が掛かってもタンク貯蔵ではなく、一本づつ瓶詰してから火入れをして貯蔵しています。1年、2年、そして3年と貯蔵するにはそれなりのスペースが必要になりますが、藤田杜氏の「旨し酒」を追求するには避けられないことで、地下蔵を改造して実現しています。

一通りの工程を見学した後は、試飲をさせていただきました。どのお酒も初めて飲む銘柄で杜氏自ら説明をいただきました。特に感銘を受けたのは、ラベルのないボトルに入った“63BY 車坂 30年熟成”(注1)です。冷やと燗でいただきましたが、色合いは透明感があり健全な、まだまだ生き生きとした状態でビックリしました。地下の貯蔵庫に昭和63年から30年間も眠っていたお酒です。地下の酒蔵の凄さを実感しました。

ひとつひとつのお酒をとても丁寧に説明されていたのがとても印象的で、藤田杜氏にとっては、これらは“28BY”の結果なのです。そして“29BY”、すなわち今から仕込むお酒に注ぎ込む情熱を感じました。藤田杜氏が造る理想のお酒は1本でコース料理のマリアージュが完成する、つまり、一つの銘柄で、前菜~メイン料理、デザートまで完結できる「旨し酒」を造ることです。品評会やコンクールに出品せず、消費者に旨いと思っていただける酒を造ることが自分の仕事で、まだ20%ぐらいしか到達できていないそうです。4年目、4回目の酒造り終えて、その結果得たもので、5回目の酒造りに臨んでいます。今回の酒蔵見学で、なぜ私がこのお酒に惹かれたのかが良くわかりました。私を魅了した日本酒の美味しさの秘密は造り手の、特に杜氏の想いの籠った、情熱の結晶であり、丁寧な手作業と徹底した温度管理の行き届いた商品である事が実際にこの目で見てわかりました。教科書を見て勉強するだけでは分からないところを藤田杜氏から熱心に詳しく教えていただき大変有意義な時間を過ごしました。

  • 注1
    “BY”とはBrewer Year(ブリュワリーイヤー 醸造年度)の事をさします。
    ・“30BY”⇒昭和30年7月1日~昭和31年6月30日までの期間に醸したお酒
    ・“28BY”⇒平成28年7月1日~平成29年6月30日までの期間に醸したお酒
    ・“29BY”⇒平成29年7月1日~平成30年6月30日までの期間に醸したお酒

最後に・・・

お忙しい時に私共の為に時間を割いて頂き、安村社長をはじめ、熱心に酒造りについて語っていただいた藤田杜氏、一日中お世話して頂いた営業の古井様、ありがとうございました。酒造りが終わる、2018年4月頃に大阪マリオット都ホテルで「車坂メーカーズディナー」を開催できることを期待してお待ちしています。

ZKでは、利酒師 毛馬がセレクトする“特選 日本酒飲み比べ 三種セット”(各60ml 2,200円)も
週替りでご用意しております。

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