森が育む、自然の恵みが詰まった伊勢湾

森が育む、自然の恵みが詰まった伊勢湾

志摩時間 2020年冬号より

鳥羽市の離島、答志島(とうしじま)は、伊勢湾に太平洋からの黒潮がぶつかる恵まれた漁場を持ち、漁師や海女が多く暮らしています。2018年に「答志島トロさわら」がブランド化され約8割を都市部に出荷するなど注目されています。他の海で捕れるさわらに比べ格段に脂肪率が高いことが特徴の答志島のトロさわらは「伊勢湾の奇跡」とも呼ばれています。

答志島トロさわら

島の港の一つ和具浦漁港では次々とさわらが水揚げされ、競り人の「やろうぜい!」という威勢の良いかけ声とともに入札が始まり、小さな港には仲買人の勝った負けたの活気ある声が響きます。トロさわらはトロのように脂乗りが良くなる10月から1月末までが漁期で、認定漁師による一本釣り漁法で釣れたものと決まっています。さらに、大きさは2.1㎏以上4.0㎏以下、脂肪含量が10%以上あり、可食部に傷や変色がなく、その日に捕れたさわらに限られるなど、厳しいブランド認定基準をクリアして、初めて「答志島トロさわら」として出荷できます。

左から塚原和食総料理長、漁師の橋本さん、樋口総料理長

左から塚原和食総料理長、漁師の橋本さん、樋口総料理長

殖わかめとさわら漁が盛んな和具浦漁港で、先祖代々漁業を営む漁師歴40年、鳥羽磯部漁協和具浦支所理事の橋本計幸(かずゆき)さんを訪ねました。「伊勢湾には木曽三川や清流宮川など、山の養分を多く含んだ水が流れ込むことで、プランクトンが育ちます。それを食べた栄養価の高い脂の乗ったイワシが大量に育ちます。そのイワシをエサにするさわらですから脂の乗りが違うんですよ」と橋本さん。

和具浦漁港で行われているさわら入札の様子

和具浦漁港で行われているさわら入札の様子

漁港内の他の魚と違って一尾ずつ氷と一緒に箱に入った状態で入札される独特のスタイルについて、橋本さんは「脂が乗って柔らかいさわらは、重ねると身崩れや変色の原因になり質が落ちてしまいます。一番良い状態を長く保つための工夫なんです」。さわら漁は曳き釣り(ひきつり)漁と呼ばれる漁法で、夜明け前の4時頃、漁師が一人で漁船に乗り、船を走らせたまま、固定した4本の竿でイワシをエサに一本釣りで釣り上げます。さわらは大きな鰾(うきぶくろ)が無く、単体で泳ぐので魚群探知機に映りにくく、漁師はエサとなるイワシの群れを探すことで漁場の目安をつけるそうです。漁が始まると昼の1時頃に港へ帰るまで、走り続ける船に立ったままの状態が続く体力のいる漁です。

さわらを知り尽くした橋本さんに日頃のさわらの食べ方を聞きました。「やっぱり刺身かたたきかな。少し寝かせると身に脂が回って美味しいですよ。それから焼き海苔で巻くのが私たち島の漁師は好きですね」。それを聞いた塚原和食総料理長は「磯部巻きですか。確かに磯の風味は合いますね。わかめなども相性が良さそうです。産地ならではの食べ方を知ることは料理を考える上でも刺激になりますね」と話しました。

左から樋口総料理長、漁協の久保田さんと濱口さん、塚原和食総料理長

左から樋口総料理長、漁協の久保田さんと濱口さん、塚原和食総料理長

答志島の北側に位置する答志漁港は広い港にたくさんの生け簀があり、時期によって魚種が変わりながら約100種の魚介類が水揚げされています。鳥羽磯部漁協答志支所長の濱口輝満(てるみつ)さんと、同漁協企画販売促進担当の久保田正志(まさし)さんにトロさわらがブランド化されたことによる島の変化を聞きました。久保田さんは「今まではフック状の金属針(鉤・かぎ)で、海面に上がったさわらの頭を目がけ、引っかけて釣り上げていました。そうすると身に鉤が刺さる場合もあり、ブランド魚として出荷するためには改善が必要でした。そこで釣り上げる際、さわらに傷をつけない様に、身を極力触らずに捕らえる漁具を漁師さんたちが独自に開発しました」。

さわらの脂肪含量測定の様子

さわらの脂肪含量測定の様子

釣り上げたさわらは船上で活締めと血抜きを行いすぐに氷水で冷やすことで、鮮度と品質を保つことができます。そして全てのさわらを脂肪含量測定し選別しています。濱口さんはブランド化したことで地元漁師の意識が変わったといいます。「若手漁師が自ら漁の勉強や練習を行うようになり、トロさわらの認定漁師が増えました。今ではトロさわらを求めて観光客も島へ訪れます。島全体で盛り上げていきたいですね」。話を聞いた樋口総料理長は「島から出荷される自分たちの魚に誇りを持ち、価値を上げる努力をされていますね。どなたとお話をしても『どこにも負けない』という気概を感じました。そうした想いを大切に調理し、お客様にお届けしたいです」と、意気込みを語りました。

答志島トロさわらの持つ脂乗りと、丁寧に水揚げされた繊細な身の柔らかさをお伝えしたいと2つの味をご用意しました。脂の乗った腹の部分は、軽く炙るだけで柔らかな生の美味しさを活かします。口に運ぶと香ばしさを感じ、噛めばさらっとした脂が溢れ出し、上品な味の余韻に浸れます。背の身は1分程スチームして旨味を閉じ込め半生の食感にすることで、柔らかな食感が愉しめます。答志島名産のわかめを添え、ソースには南伊勢の柑橘を使い爽やかに仕上げました。産地では主に刺身で食されていることから、新鮮なさわらの素材本来の特徴を活かした火入れを施すことで、トロさわらの魅力を引き出した一皿です。
2020年12月・2021年1月の「デギュスタシオン」コースでお召し上がりいただけます。

フレンチレストラン「ラ・メール」 ザ ベイスイート5F
ランチ  11:30-14:30(13:00までのご入店/貸切のみ)
ディナー 17:30-22:30(L.O.20:30)
  • 入荷状況によりご用意できない日がございます。

答志島トロさわらは一日寝かせることで身に脂が馴染み、とろけるような食感になります。背の身は強火で皮目を炙り香ばしい焼き霜作りに。イクラの食感をアクセントにした山掛けで味の違いもお愉しみください。腹の身は海苔の産地答志島の漁師さんおすすめの磯辺巻きにしました。パリっとした焼き海苔にさわらの脂は相性が良く磯の香りが広がります。
2020年12月・2021年1月の単品メニューでお召し上がりいただけます。

料金 ¥3,800(¥4,598)
和食「浜木綿」 ザ ベイスイート4F
ご昼食 11:30-14:30 (13:00までのご入店/貸切のみ)
ご夕食 17:30-22:30 (L.O.20:30)
  • 入荷状況によりご用意できない日がございます。
総料理長 樋口 宏江 1991年志摩観光ホテル入社。2008年ベイスイート開業とともにフレンチレストラン「ラ・メール」のシェフとなる。2014年に志摩観光ホテル総料理長に就任、2016年伊勢志摩サミットでワーキングディナーを担当。2017年に農林水産省料理人顕彰制度、料理マスターズブロンズ賞に女性初、三重県初の受賞。
和食総料理長 塚原 巨司 1986年博多都ホテル入社。和食「四季亭」、1987年都ホテル大阪(現シェラトン都ホテル大阪)日本料理「都」、「うえまち」で研鑽を積む。2016年伊勢志摩サミットにて和食料理の提供に携わる。2019年、志摩観光ホテル和食総料理長に就任。
取材日:2020年10月

伊勢志摩の地は、ゆるやかな時間の流れに合わせて、表情を少しずつ変えながら、四季折々の味覚や色彩を私たちに届けてくれます。
そんな季節の移ろいとともに、志摩観光ホテル季刊誌「志摩時間」では、地元の文化や豊かな自然などを通じて、伊勢志摩の四季をご紹介しています。

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