一大産地の暮らしに根付く、伊勢海老。

志摩時間 2022年冬号より

伊勢海老漁が始まる10月になると伊勢志摩各地の漁港一面に広がる赤色の海老網は冬の風物詩。俳句で新年の季語に用いられ、また結婚式や正月のおせちなど、祝いの料理に欠かせない食材の伊勢海老は「三重県のさかな」や「三重ブランド」にも認定されています。

三重県は伊勢海老の漁獲量が全国1位で、その約4割が志摩市で漁獲されています。中でも一大産地である志摩市和具(わぐ)漁港と、92年前から伊勢海老を研究する三重県水産研究所へ、樋口総料理長、塚原和食総料理長、栗野料理長、杉原シェフソムリエと訪ねました。

そこには地域の産業を未来に繋ぐために奮闘する人々の一筋の希望がありました。

志摩市和具は英虞湾と伊勢海老漁が行われる外湾の両方に面しており、和具漁港は伊勢海老以外の漁も盛んで県内でも屈指の規模を誇ります。

和具では現在、22軒が伊勢海老漁を行っています。伊勢海老漁は前日の午後、明るいうちに船を出し、船で10分程の浅い岩礁を中心とした漁場へ網を仕掛けます。「刺し網漁」と呼ばれる漁法で鉛の重りが付いた網を伊勢海老が生息する岩場に沈めると、夜にエサを求めて動き回る伊勢海老が網に掛かるという仕組みです。

海老網に掛かった伊勢海老

翌日の夜明けとともに漁が始まり1帖120m程ある網を、伊勢海老が傷つかないようにゆっくりと引き上げます。ひとつの船で仕掛けることのできる網の数は最大9帖と決まっており、仕掛けたポイントから網を上げると漁は終了。

港に戻り、網は次々と船から下ろされ台車に乗って網捌き場へと運ばれます。

伊勢海老を網から外す様子

いっぱいに広げた網に掛かった伊勢海老は、足や触角が外れないよう専用の道具を使い丁寧に手作業で外します。時間と手間が掛かるため網捌きは家族総出。時には近所の人も手伝いにやってくるそうです。

和具の人々にとって伊勢海老漁とはどういう存在なのでしょうか。

漁師は「伊勢海老漁が解禁になると町が活気づくからね。そりゃ嬉しい気持ちになるさ」と笑顔に。網捌きをする家族も「以前と比べて量は少なくなったけど、地域の皆で顔を合わせ網捌きをするのが楽しみ。私たちの暮らしそのものですよ」と穏やかに話します。

市場での伊勢海老の仕分け風景

伊勢海老は隣接する市場でサイズ毎に仕分けされ、競りにかけられます。伊勢海老漁には三重県が定めた「漁業調整規則」があり、約70g以下の伊勢海老を獲ってはいけないとされています。

和具ではそれよりさらに厳しい基準を独自のルールとして設け、110g以下の伊勢海老も海へ放流し資源保護に取り組んでいます。

続いてお話を伺ったのは、三重外湾漁協 和具海老網同盟会の会長で伊勢海老漁師の小川吉高(よしたか)さん。

伊勢海老漁師は漁の網を自分で仕立てることから網の出来も漁師の腕だと教えてくれました。「たまに大きな海老がいて、10数年程前には2.5㎏の伊勢海老が番(つが)いで掛かったことがありました。足なんて人の手の指より太かった。豊富にあるエサを食べ長生きしたんでしょうね」。話を聞く皆さんは驚きの表情。

伊勢海老は200g前後が身も美味しく良い値が付くそうです。
塚原和食総料理長は「志摩半島の伊勢海老が火を入れても身が縮みにくいのは、エサが良く身がしっかりしているからなんですね」。

和具では1970年代から「プール制」という独自の制度を行っています。共同で操業する伊勢海老漁の専用区域を設け、各漁家が網を2枚ずつ持ち寄り、5隻の船に乗り合い、漁を行います。
獲れた伊勢海老の売り上げも公平に分配。伊勢海老を獲りすぎない資源保護と、安定した漁業経営への取り組みは世界的にも注目されています。三重県においても40年以上前から伊勢海老が産卵を迎える5月〜9月末(一部地域は9月15日)は禁漁期間で資源の保護を行っています。

しかしながらここ3〜4年は全国的にも伊勢海老の量が減っており和具も同様だそうです。それには海水温の上昇も理由のひとつとされています。「水温が上がることで海藻が減り伊勢海老のエサとなる甲殻類や貝類も減っていくのですね」と栗野料理長。

小川さんは「私たちは伊勢海老漁が生活の糧であり、人生であり、生まれ育った地元の誇りです。だから下を向いていてもしょうがない。皆で考え獲り方を工夫したり量をコントロールしながら頑張るしかない。利益ばかりを求めず最適な量を見極め獲る時代だと思います。そして次の世代へ伊勢海老漁を残していきたいと思っています」。

杉原シェフソムリエは「自然環境の変化を受け入れながら諦めずに取り組む皆さんの努力を改めて感じました」。

志摩市浜島(はまじま)町にある三重県水産研究所へ。
昭和5年から研究を重ね昭和63年に世界で初めて伊勢海老の卵から稚エビの人工飼育に成功した施設で、現在は稚エビを大量飼育する研究が行われています。

伊勢海老は卵から孵って1.5㎜程で幼生と呼ばれ、その後1年を掛けて2㎝の稚エビになります。研究員の田中真二(しんじ)さんは「人工飼育では、幼生が最も成長する時期に貝類などのエサが不足するのが課題でした」。

そこで研究所では親エビの産卵時期を人工的にコントロールすることでエサが豊富にある時期に成長を合わせる実験をしています。「稚エビが大量に飼育できても海に放した後に、磯焼けで藻場が減るとエサ不足で育たないという新たな問題もありますが、海の環境に影響を与えるとみられる黒潮の大蛇行もいずれ収まると考えられています」。

資料を説明しながら「海水温が上がると、海藻を食べる魚種の活動期間が長くなり、食害も増えることが分かっています。」と丁寧に解説する田中さん。

研究所では海藻の一部を網で覆い食害から守り、海水温が下がったときに残した海藻を繁殖させ海の環境を取り戻す研究も同時に進んでいるそうです。

また、研究所では天然の伊勢海老の幼生が志摩の海に戻ってきている数を毎日測定しています。

「その数値を分析することで食べ頃に育つ2〜3年後の伊勢海老の量が予測できます。情報を計画的な漁に繋げてもらい、環境と地域の生活に貢献することも水産研究者の役割だと考えています」。

樋口総料理長は「入社間もないころ、この研究所で伊勢海老について学ぶ機会がありました。
当時から伊勢海老の生態には謎が多く飼育は難しいと聞いていましたが、今日お話を伺って着実に発展していることに研究者の皆さんの努力と希望を感じました」。

地域への想いと伊勢海老の一大産地のプライドが、未来への歩みを進めています。

総料理長 樋口 宏江 2014年志摩観光ホテル総料理長に就任、2016年伊勢志摩サミットでワーキングディナーを担当。2017年に農林水産省料理人顕彰制度、料理マスターズブロンズ賞に女性初、三重県初の受賞。
和食総料理長 塚原 巨司 1987年都ホテル大阪(現シェラトン都ホテル大阪)日本料理「都」、「うえまち」で研鑽を積む。2016年伊勢志摩サミットにて和食料理の提供に携わる。2019年、志摩観光ホテル和食総料理長に就任。 
シェフソムリエ 杉原 正彦 2011年全日本最優秀ソムリエコンクールセミファイナリストなど数々のコンクールで入賞。伊勢志摩サミットでは、日本ワイン選考委員会メンバーと飲料サービス責任者を担当。
リアン・山吹 料理長 栗野 正也 2020年志摩観光ホテル鉄板焼山吹料理長となる。多くの現場経験を活かし、カウンターでの会話と臨場感を愉しめる鉄板焼きを提供。

伊勢海老のヴィルロワ風

志摩半島のリアス海岸の自然が育み、地元の漁師さんの努力と誇りとともに届く伊勢海老への感謝の気持ちを込めました。
ホワイトソースをベースに作るソース・ヴィルロワ。今回は主役の伊勢海老が引き立つように海老の風味が濃厚なアメリカンソース、香味野菜を加えました。生の伊勢海老の表面にヴィルロワソースを纏わせて成形し、衣を付けて揚げます。さくっと揚がった衣の食感、とろりと熱々のソースに半生の伊勢海老。味わいの魅力はもちろん、食べた時の驚きも愉しんでいただきたいひと皿です。

12月〜1月の「デキュスタシオン(¥32,200)」コースにてお召し上がりいただけます。
※入荷状況によりご用意できない日がございます。
 

伊勢海老アメリカンソース

「火を通して新鮮、形を変えて自然」という料理哲学を持つ高橋先々代総料理長が考案した「伊勢海老アメリカンソース」は、ホテルを代表する料理のひとつ。注文を受けてから活きた伊勢海老を調理するのも変わらないこだわりです。
濃厚なアメリカンソースは伊勢海老の頭、殻、小海老を香味野菜とトマトで煮込み、ブランデー、白ワインで仕上げる濃厚なソースです。この料理ではさらに卵黄とバターで作るオランデーズソース、ホイップクリームを加えたソースを軽くボイルし縦に割った伊勢海老にチーズとともにたっぷりと乗せ、上火のオーブンで焼き色を付けたら完成です。香り立つソースと身の味わいは、伊勢海老の魅力をさらに高めた逸品。シンメトリーに盛り付けた伊勢海老は神社仏閣などの日本古来の様式美を取り入れています。伊勢志摩ガストロノミーの原点とも言えるひと皿をご堪能ください。

伊勢海老アメリカンソース ¥10,300
 

フレンチレストラン「ラ・メール」 ザ ベイスイート5F
ディナー 17:30-21:00(L.O.19:30)
※現在営業時間を一部変更しています。

伊勢海老陶板蒸し鍋

伊勢海老は立身出世や長寿の象徴、特に和食ではおめでたい席には欠かせない食材です。様々な調理法の中から、豊穣の海で育つ伊勢海老本来の味わいをご堪能いただきたく、温かい陶板蒸し料理をご用意しました。
伊勢海老は旨味と香りが引き立つ酒蒸しに。軽く火を入れ身がふっくらとしてきたら、伊勢どりで取った出汁を注ぎ蒸し上げます。鶏出汁の濃厚な旨味、伊勢海老の上品な甘味と食感が愉しめ、海老味噌からは磯の香り。出汁にも海老の風味が移り滋味深い味わいが身体に染み渡る美味しさです。縁起物として欠かせない存在の伊勢海老の魅力を、存分にご堪能いただけます。

12月〜2月の「浜木綿会席」(¥39,000)、「匠」(¥50,000)にてお召し上がりいただけます。
※入荷状況によりご用意できない日がございます。
※除外日「浜木綿会席」1/1〜1/3、「匠」12/31〜1/3
 

冬の御食つ国会席

旬を迎える志摩の天然トラフグ、三重のブランド魚でもあるあのりふぐと伊勢海老を余すことなくご賞味いただける冬の御食つ国会席。
前菜はふぐの骨から取ったゼラチンで、出汁の旨味を感じる煮こごりをご用意。昆布締めしたふぐを添えます。てっさと伊勢海老は新鮮な素材ならではの甘味を感じられ、湯引きしたふぐの皮もアクセントに。冬になると大きく、そして旨味が濃くなるクリーミーな白子は、軽く焼いて茶碗蒸しにしました。料理一題には、身の旨味を味わえるふぐの唐揚げ。出汁にこだわった味噌汁にも伊勢海老を加え風味豊かに仕上げます。食事はにぎり寿司、伊勢海老天丼、あのりふぐ雑炊からお選びいただけます。あのりふぐと伊勢海老の産地で様々な味覚を味わい尽くす、贅沢な時間をお愉しみください。

冬の御食つ国会席
12月1日(木)〜2023年2月28日(火)
¥32,200
※除外日1/1〜1/3
 

和食「浜木綿」 ザ ベイスイート4F
ご夕食 17:30-21:00 (L.O.19:30)
※現在営業時間を一部変更しています。

伊勢海老と甘鯛 トリュフの焼きリゾット 日本酒を使ったソース

和と洋のエッセンスを融合させ、伊勢海老と三重県産甘鯛の魅力を引き出しました。
伊勢海老は鉄板で半生の状態まで蒸し焼きにし、ふっくらとした食感と甘味を引き出します。身の取り出し方にもひと工夫。殻はハサミで割り、身に圧力を掛けずに外し、肉厚で美しい身と食感を際立たせます。甘鯛は昆布を被せ皮目から火を通し蒸し焼きに。鯛に昆布の香りと旨味が程良く乗ったら、皮を丁寧に外し松笠焼きにします。ふっくらとした甘鯛の身とパリっと仕上げた皮の食感の違いも愉しんでください。魚のアラで取っただしにエシャロット、シャンピニオンを加え、日本酒と生クリームで仕上げたソースはフレンチの白ワインソースとはひと味違う甘味とふくよかさのある味に。伊勢海老の頭はコースの締めの味噌汁に入れ、ほっとする味わいを。鉄板から生まれる多彩な食感と香り、味覚をお届けします。

12月〜2月の「三重の食材と冬の味覚ペアディナー」にてお召し上がりいただけます。
お二人様 ¥64,400
※12/16〜12/25はクリスマスペアディナーのご提供となります。
 

鉄板焼レストラン「山吹」 ザ クラブ2F(要予約)
ランチ  11:30-13:30(L.O.13:00/2日前 20:00まで)
ディナー 17:30-21:00(L.O.19:30/前日 20:00まで)
※現在営業時間を一部変更しています。

 
伊勢志摩の地は、ゆるやかな時間の流れに合わせて、表情を少しずつ変えながら、四季折々の味覚や色彩を私たちに届けてくれます。
そんな季節の移ろいとともに、志摩観光ホテル季刊誌「志摩時間」では、地元の文化や豊かな自然などを通じて、伊勢志摩の四季をご紹介しています。

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