豊穣の海が育む離島のマダコ
息吹く伝統
志摩時間 2024年冬号より
伊勢湾の入口にそびえ、神が支配する島だと信じられていた離島「神島」
鳥羽市には4つの有人離島があり、中でも神島(かみしま)、菅島(すがしま)、答志島(とうしじま)は伊勢湾に太平洋の黒潮がぶつかる良質な漁場に位置しています。
様々な魚種、海藻が豊富で古くから漁業が盛んなこれらの島々は、伊勢海老、鮑などが獲れ、それらを餌にする良質なマダコの産地でもあります。島では一年を通してタコ漁が行われており、漁港にはタコ壺があちこちに置かれています。
そこには人と自然が共存する、離島ならではの漁村文化や、昔からタコとともに生きてきた漁師の英知の結晶がありました。
タコの島「神島」に伝わる、歴史と暮らし。
鳥羽港から約14㎞に位置する神島は周囲3.9㎞で人口は約300人、島民の約9割が漁業に従事しています。
渥美半島の伊良湖岬から約3.5㎞と愛知県側にも近く、神島との間には「伊良湖(いらこ)水道」と呼ばれる海峡があります。
神島のタコ漁師、天野秀人(あまの ひでと)さん、鎌田秀成(かまた ひでなり)さん、寺田和之(てらだ かずゆき)さんにお話を伺いました。
古くからその味わいが評判の神島のタコについて伺うと「潮の流れが速い伊良湖水道で育つので、食感が全然違います。タコだけでなく神島で獲れるものは、鮑でも海藻でも何でも硬いんです」と天野さん。
漁法は昔から伝わるタコ壺漁で漁師は1〜2人で漁船に乗り、海中の「筋」と呼ばれるタコの通り道に約500個のタコ壺を仕掛け、潮時に合わせタコ壺を約2時間かけて引き上げます。
タコ壺は1〜2週間に一度は陸に戻して洗浄。「壺を引き上げた時に、次から次へタコが入っていると嬉しいですね。
海にはタコが多くいる筋とそうでない筋もありますが、毎年クジ引きでどの漁師がどこの筋で漁をするか決めているので平等なんです」と鎌田さん。
現在、島には7名のタコ漁師がいて、7年に一度はタコが多くいる筋に当たるようにすることで、漁師の暮らしを皆で守っているそうです。
寺田さんは「島の周囲には約60本の筋があり、それを記録した古文書があるんですよ」と特別に見せてくれました。
漁師達もいつから伝わるものか分からないという門外不出の古文書は数十年周期で書き写され、一つひとつの筋の名称とそこから見える島や木の種類や特徴などが書かれています。先人の知恵を活かしたタコ漁は、いつから始まったのかもわからないそうで「神島に人が暮らし始めた時からとちゃうかな。これだけタコが獲れるからね」と話す天野さん。
「伊勢海老や鮑などの貝類を食べるので、ここのタコは味が濃いですよ。なので湯がくだけでも旨味が増して美味しいです。実はタコが大漁のときは伊勢海老が少なくて伊勢海老が多いときはその反対。タコは私たちよりグルメです」と笑顔で話してくれました。
たくましく育つ郷土の美食、「離島」のマダコ。
島で唯一の旅館、山海荘(さんかいそう)で名物の「タコ飯」をいただきながら、神島に伝わるタコ飯の作り方を女将さんに教えてもらいました。
タコは生だと硬すぎるので塩でヌメリを取り、一度冷凍すると筋繊維が切れて柔らかくなります。野菜を煮た湯にタコを数十秒潜らせ、タコの赤い色をゆで汁に移します。鍋に切ったタコと米、にんじんやごぼうなどの野菜と先ほどのゆで汁を注ぎ、醤油、砂糖、酒を加えた甘めの味付けで炊き上げます。
栗野料理長は「タコが程良い弾力で、すっと噛み切れる柔らかな繊維質もある。絶妙な食感ですね」と話すと、塚原和食総料理長は「色がきれいで旨味も強い。箸が止まらないです」ともう一杯おかわり。
女将さんは「ここのタコは味が濃いので鰹や昆布などの出汁は使わず、タコの旨味だけで作ります。この味は神島ならではです」。
神島から定期船で約20分。鳥羽港から約2.5㎞に位置する答志島へ
神島を後にして答志島へ移動。
答志漁港で競りの様子を見せていただくことに。漁港にはすでにタコが水揚げされていました。
答志島を含めた離島のマダコは神島と同じ筋の延長線上で漁をしているそうです。
「冬の離島のマダコは大きく育つので食べ応えがあり、味も濃くて美味しいので注文が多いです」と仲買人さん。
競りが始まると、札入れをする仲買人の勝った負けたの賑やかな声が漁港に響きます。
樋口総料理長は「潮の流れが速い場所での漁は、恵みも多いですが命の危険と隣り合わせだと伺いました。それでも毎日のように海に出て、タコ漁を続けている。漁師さん達には古文書が大切に残され、それが今も導として使われていることに離島のタコ漁の貫禄を感じました。鳥羽の離島が誇るマダコを使わせていただけることに、伊勢志摩の料理人として喜びを感じますね」。
タコの競りの様子
総料理長 樋口 宏江 | 2014年志摩観光ホテル総料理長に就任、2016年伊勢志摩サミットでワーキングディナーを担当。2017年に農林水産省料理人顕彰制度、料理マスターズブロンズ賞。2023年フランス農事功労章シュヴァリエ受章。 |
---|---|
和食総料理長 塚原 巨司 | 1987年都ホテル大阪(現シェラトン都ホテル大阪)日本料理「都」、「うえまち」で研鑽を積む。2016年伊勢志摩サミットにて和食料理の提供に携わる。2019年、志摩観光ホテル和食総料理長に就任。 |
リアン・山吹 料理長 栗野 正也 | 2020年志摩観光ホテル鉄板焼山吹料理長となる。多くの現場経験を活かし、カウンターでの会話と臨場感を愉しめる鉄板焼を提供。 |
総料理長がお届けする冬の料理 樋口宏江の料理ストーリー
フレンチレストラン「ラ・メール」 | ザ ベイスイート5F ディナー 17:30-21:00(L.O.19:30) |
---|
和食総料理長がお届けする冬の料理 塚原巨司の料理ストーリー
和食ならではの調理方法で3品のマダコ料理をご用意しました。
タコの柔らか煮は、熊野地鶏とかつお節の出汁で大根と一緒に2時間蒸し煮。柔らかな食感とともにしっかりと味を染み込ませます。伊勢海老、答志島トロさわらなどの食材にもタコの旨味を馴染ませます。タコ壺に見立てた大根を加え、海鮮おでん風に仕上げました。
タコしゃぶは寄せ鍋風の出汁にさっと潜らせ、軽い霜降りにすると、離島のタコならではの旨味と食感をお愉しみいただけます。
松本農園の梅干しを使った梅だれ、柚子を効かせたポン酢とお好みでお召し上がりください。
タコの土鍋炊きご飯は、タコの頭で旨味と色を移したかつお出汁で作ります。
薄口醤油と料理酒で味を調え、タコの足、油揚げ、にんじんを入れて炊き上げます。蓋を開けるとタコの香り、口に運ぶとタコの旨味と食感が存分に味わえます。
12月〜2月の期間にご提供する予定です。
※入荷状況によりご用意できない日があります。
冬の御食つ国会席
三重ブランドに認定されている伊勢海老やあのりふぐなど、季節の美味を揃えた冬の御食つ国会席。
造りでは旬の伊勢海老の上品な甘味を。天然トラフグ〝あのりふぐ〟のてっさやコラーゲンが豊富な鉄皮はこの時期ならではの味覚です。
さらに白子の天ぷらや唐揚げもご用意し、余すことなくあのりふぐをご堪能いただけます。
鮑の殻を使った伝法焼きは出汁を合わせた玉子とともに柔らかく煮た鮑や答志島トロさわらを蒸し焼きにします。鮑の旨味、脂の乗った鰆のふんわりとした食感が愉しめる温かなひと品。
焚合せには濃厚な味わいの離島のマダコをご用意しました。
料理一題の伊勢海老の具足煮は、熊野地鶏とかつお出汁に伊勢海老の味噌を加えた濃厚な味わいです。他にあのりふぐの小鍋、松阪牛の冷菜もお選びいただけます。
食事もあのりふぐと伊勢海老を使ったにぎり寿司や、あのりふぐの茶漬け、伊勢海老のかき揚げ天丼と、滋味豊かな季節の味をお届けします。
和食「浜木綿」 | ザ ベイスイート4F ご夕食 17:30-21:00 (L.O.19:30) ご昼食 11:30-13:30 (L.O.13:00) ※ご昼食は4名様から。1週間前までのご予約制。 |
---|
鉄板焼「山吹」料理長がお届けする冬の料理
栗野正也の料理ストーリー
蛸と伊勢ひじき 結びの神のガーリックライス
ペアディナーの最後にお出ししている松阪牛のガーリックライスを、離島のマダコを合わせアレンジしました。
鉄板ではエリンギ、ニンニク、松阪牛のサーロインと粒立ちが良い三重県産米「結びの神」でガーリックライスを作ります。野菜の出汁にタコの足を入れて軽く炊き旨味を加えます。
次にタコの吸盤の食感がわかるようにカットし、昆布、かつお出汁、醤油漬けにしたニンニク、酒、みりんなどで作ったタレでさっと炒め、味を絡めます。鉄板に溢れたタコの出汁の旨味をガーリックライスに馴染ませたら、松阪牛の出汁を含んだ伊勢ひじきと青ねぎを加え仕上げます。
松阪牛の甘味と香ばしい風味、加えてタコの旨味と食感。いつものガーリックライスとはまた違った味わいとなり、伊勢湾の風景を感じさせてくれるひと品となりました。
鉄板焼レストラン「山吹」 | ザ クラブ2F(要予約) ランチ(土日限定) 11:30-13:30(L.O.13:00) ディナー 17:30-21:00(L.O.19:30/前日 20:00まで) ※水曜日定休(1月1日は営業)。 ※ランチは4名様から。1週間前までのご予約制。 |
---|
志摩観光ホテル季刊誌「志摩時間」
伊勢志摩の地は、ゆるやかな時間の流れに合わせて、表情を少しずつ変えながら、四季折々の味覚や色彩を私たちに届けてくれます。
そんな季節の移ろいとともに、志摩観光ホテル季刊誌「志摩時間」では、地元の文化や豊かな自然などを通じて、伊勢志摩の四季をご紹介しています。