御食つ国と伊勢海老

伊勢神宮と御食つ国志摩。

2017年冬号より

一滴の雨水。それをも無駄にしない、自然という循環。その循環の中に生きる人間。伊勢志摩国立公園の森から、養分をふんだんに含んだ水が、英虞湾から沖に流れます。また西の三重県山間部から清流宮川などを通じ、山からの栄養も海へ流れます。養分を含んだ水はプランクトンを育て、海の食物連鎖をつくり、多種多様な魚介類が育ちます。北からは木曽三川の養分で育った伊勢湾の幸、南からは黒潮に乗ってくる海の幸があります。恵みの海を持つ、志摩半島。まるで神様がそのように創ったかのようです。
志摩市の浜島町からは伊勢海老を、志摩町からは鮑を、阿児町からはあのりふぐ等、各地から伊勢神宮に奉納をしています。自然と神様に感謝をしながら里海に暮らす人々と、美しい日本の原風景。

志摩地方は十日毎に鮑、さざえ、海藻、真珠などを、朝廷に納めることが定められていたと、十世紀ごろの法律書である延喜式に残されています。まさに志摩は御食つ国(みけつくに)なのです。

解禁。伊勢海老を知る。

十月に入ると、三重の各地で伊勢海老漁が解禁。その一大漁場、志摩市の和具漁港を、総料理長の樋口さんと訪ねました。
早朝の伊勢海老漁から帰ってこられた漁師の大山さんに、伊勢海老についてお話を伺いました。志摩半島や東紀州はリアス式海岸。そして海底にも山や谷がある。天敵から隠れて過ごすための岩場や、多様な餌があるところに伊勢海老は住むと大山さんは話します。
「人間と同じ。食べ物があって、ええ場所に住む」と、話す大山さんは代々の漁師。きっと美味しい食べ方を知っているはず。
「焼いてな、味噌自体も美味しい。新しいものは旨い、何でもそう。お母ちゃんの手料理でな、7〜8人集めて、伊勢海老の天ぷらで一杯やる時もあるよ」と、とても美味しそうなお話。

- 樋口さんは、漁港で何を感じましたか?

「食材が入るには多くの方の手が必要。とても貴重。大切に調理したいです」
漁港で出会った沢山の笑顔。美味しい料理には欠かせない、人の繋がりを実感しました。

そそがれた想い。注ぐ想い。

しなやかな発想で、新しい時代のフレンチを創り続ける樋口さん。
取材に訪れた厨房は、仕込みの真っ只中。しかし想像とは少し違い、騒がしさがありません。
「調理鍋を一つ置くにしてもそっと、持つにしても、ここをこう持って・・。」
そんな料理に向き合う姿勢は、地域の美食文化を培ってきた、志摩観光ホテルに伝わる教えだと樋口さんは言います。
樋口さんは日々閃きを求め、新たな情報を集めたり、旬の地元食材を探し歩いたり。新メニューになるのは、それらすべての想いを注ぎ「これだ」 と辿り着いた料理から、さらに厳選されたもの。

「海の幸フランス料理」を受け継ぐ料理人としての想い。そこに新しい想いが加わることにより、伝統は革新し続けています。
まるで伊勢に根付く常若の精神のように、里海である志摩に巡る、自然の循環のように。

取材

2017年10月