松阪牛

日本が誇るブランド牛。

志摩時間 2018年秋号より

肉の芸術品、日本が誇るブランド和牛とも云われる三重県の松阪牛。黒毛和種、未経産の雌牛で、松阪牛個体識別管理システムに登録され、生後12ヶ月齢までに県内の松阪牛生産地域で肥育を開始し、同地域での肥育期間が最長・最終であることが松阪牛の証し。松阪牛生産区域は櫛田川や日本一の清流宮川が流れ、山からの養分を含んだ水と伊勢平野の温暖な気温です。今回は樋口総料理長、塚原和食料理長と緑豊かな山里の「多気町」へ松阪牛の畜産家を訪ねました。

まずは松阪牛のルーツを伺いました。
「家業の明治期の商帳は残っているのですが、江戸期には存在していたみたいです。松阪牛は元々、農耕用の役牛でその牛が明治期に食用となりました」と説明してくれたのは松本畜産の松本一則さん。鉄道が未整備の明治期、東京まで百頭以上もの牛を引き連れ、徒歩で20日もかけて売りに行っていた松阪牛は「お伊勢さんから来た牛」と人気となり評価を上げていました。昭和10年には全国肉用牛畜産博覧会で名誉賞を受賞しました。

取材中、興味があるのか近づいてくる牛たち。
「この子たち、近づいていくと寄ってくるのに、手を差し出すと後ずさりしちゃいますね」と樋口総料理長。

「臆病やけどすごく好奇心が強いんですよ。牛どおしでも仲が良かったり悪かったりいろいろです」と松本さん。牛の主食となる飼料は、地元の農家で収穫された稲わらを中心にこだわった独自ブレンド。そして牛にシャンプーやブラッシングなどを行い刺激を与えることでストレスを緩和し、肉質を良くするのも松阪牛の特徴。

「洗うと気持ちいいんやと思います。手をかけて、ここにいる間はストレスなく、心地よく過ごさせてやりたいですね」と愛おしそうに牛を撫でました。代々の畜産家の家に育った松本さん。今は息子さんが技を継承して牛を育てています。小さい頃から食卓の話題は牛について。過去には、牛の品評会(松阪牛共進会)で、松本畜産の牛が最優秀に選ばれたこともあるそうです。手塩にかけて育てた牛が、生き物から食べ物になったとき、松本さんは必ずその肉を食べるといいます。
「食べてやらなあかんのです。それが供養です」
生産者が牛に日々注ぐ愛情や想い。それが日本が誇る松阪牛の味となっていることを教えて頂いた後、牛舎のほど近くのカフェまつもとへ。

熟知した奥さん、娘さんと三人で運営していて、お肉のランチメニューなどが愉しめ、松阪牛の販売も行っています。店では松阪牛談議が始まりました。
「松阪牛の脂は、爪の上の温度で溶けるほど融点が低い」と松本さん。他の和牛より脂に不飽和脂肪酸が多く、それが松阪牛のとろけるような食感をつくっています。

「脂と言えば、和食では煮物や鍋料理に厚あげを使って油分を足すことがあるんですが、松阪牛では要りませんね。良質な脂のある松阪牛は鰹出汁とも相性が良く汁物にも合います」と塚原和食料理長。

「他の和牛より融点が低い松阪牛は、手早い処理が求められます。サシの入った良い肉は特に気を使います」と樋口総料理長。
「じっくりと手をかけた分だけ良い牛になります」と松本さんの自信を感じる一言。
「ここに伺って牛が愛情込めて育てられ、牛が食べるものにもとても気を使っていることなどを知り、大切に調理したいと思いました。牛にはフィレ、ロース、タン、テール、ラムイチなどそれぞれの部位がありますが、どれも美味しく召し上がっていただきたいです」と樋口総料理長。

松阪牛の肥育技術の知識は先人から引き継がれ、一家で次の時代に引き繋いでいく。生産者のたゆまぬ努力と知識の伝承が松阪牛というブランドを守っています。

旅の想い出

松阪牛の美味しい脂で作った食用のMATSUMOTO OIL。 2018年10月頃からカフェまつもとで試作販売予定。

取材協力

松本畜産・カフェまつもと
ホテルから車で約1時間、約50km。
〒519-2175 三重県多気郡多気町前村1808
電話 0598-39-3368 ホームページ http://www.matsusaka-ushi.com
※松阪牛の販売は毎月29日のみ(8月・12月は販売日が変わります)

取材日

2018年7月

志摩観光ホテル季刊誌「志摩時間」

伊勢志摩の地は、ゆるやかな時間の流れに合わせて、表情を少しずつ変えながら、四季折々の味覚や色彩を私たちに届けてくれます。
そんな季節の移ろいとともに、志摩観光ホテル季刊誌「志摩時間」では、地元の文化や豊かな自然などを通じて、伊勢志摩の四季をご紹介しています。