あのりふぐ

三重ブランド「あのりふぐ」

志摩時間 2018年冬号より

三重ブランドあのりふぐが水揚げされる志摩市阿児町安乗(あのり)は、人口約1780人(平成28年)の岬にある漁村です。
国指定重要無形民俗文化財である安乗文楽が毎年開催される安乗神社や、観光名所である安乗埼灯台、そして安乗漁港を樋口総料理長と訪ねました。

歴史ある漁村、安乗を訪ねる。

安乗埼灯台

日本灯台50選に選ばれている安乗埼灯台。その付近は広い芝生公園になっていて、大海原を眺められる絶景スポットとして観光客にも人気です。岬に打ち付ける白波は、大自然の力強さを感じさせます。安乗埼灯台から歩いて3分程で、安乗神社に到着。

安乗神社 

安乗神社のお守り「波乗守」。ご祭神、綿津見命の娘の豊玉姫命はサメであったと日本神話にある。

神社にはご祭神に関係のあるサメがモチーフのスタイリッシュな波乗守もあり、若い人にも人気で、人生の波に安全に乗ることを願掛け。 毎年9月に神社で開催され、安土桃山時代から続く安乗文楽は地元の子ども達が継承。その始まりは豊臣秀吉に仕え、九鬼水軍を率いた志摩国の海賊大名、九鬼嘉隆に由来すると伝わっています。そんな深い歴史を持つ安乗は、昔から漁業が盛んです。 続いて10月から漁が解禁になるあのりふぐを求めて、安乗漁港に向かいました。

「つくり育てる漁業」でブランド化。持続可能な未来へ繋ぐ、安乗の挑戦。

淺井さんと樋口総料理長。入札後のふぐを入れておく、海上にあるいけす前で。

お話ししてくれたのはあのりふぐ協議会(以下協議会)会長兼三重外湾漁協組合長で現役漁師の淺井利一さん。あのりふぐとは、伊勢湾を含む遠州灘から熊野灘にかけての海域で漁獲される体重700グラム以上の天然トラフグと定義されています。
700グラム未満のふぐは捕獲せず、3月から9月末までを禁漁期間とし、月に4回ほどしか漁を行わないなど乱獲を防ぐ取り決めをしたり、ふぐの稚魚を伊勢湾で放流するなどの資源管理にも取り組んでいます。
「鳥羽市答志島からもふぐの稚魚を持ってきてくれるなど、近隣地域で協力し合っています」と淺井さん。 伊勢湾は木曽三川や宮川などから山の養分を豊富に含んだ水が流れ込み、プランクトンを育てそれを食べる小魚が集まり、そして小魚を食べる様々な魚が育つという自然の恵みが溢れる漁場。その昔、陸路で京都まで鰯を運んでいた鰯街道もあったことから、伊勢湾では脂の乗った鰯をはじめ鰺などあのりふぐのエサが豊富で大きく育ちます。 伊勢湾の出口に位置する安乗では100年以上も前からふぐ漁はありましたが、あのりふぐとしてブランド化したのは30年程前から。淺井さん達が中心となり、山口県などへの地元ふぐ漁師の視察や交流を通じていろいろと教わったといいます。
「延縄漁で行うふぐ漁は、釣り先(針の先)が大事。特注した針を数えると一つの縄に99本。理由を聞くと、ふぐが『食う食う』でした。でもあんまり欲張らず『食う』だけでいいやんかということで私の縄は90本にしたんです。それからね、昔から安乗では、ふぐはお姫様のように大事に扱えと伝えられていますよ」実際、あのりふぐはどのように扱われているのでしょうか。

いけすの中で出荷を待つあのりふぐ

漁場で一匹ずつ丁寧に釣り上げられたあのりふぐはイケスの中で嚙み合って傷がつかない様に、漁師が鋭い歯の先端だけを切ってから、大(1.5キロ以上)と小(700グラム以上)のイケスに分けられます。安乗のふぐ漁師の歯切り技術は高く、ふぐを長く生かすと定評があります。

船上にて独自の計りで素早く計量して入札

港に付くと船上で即座に測量できる器具を使い大・小それぞれのイケスを仲買人などが一隻単位で落札するという独特な入札方法。

生きたまま出荷されるあのりふぐ

そしてふぐの出荷は生きたままの状態でイケス付きのトラックなどで行い、協議会認定飲食店や小売店へ。つまり、ふぐにできるだけストレスを与えずに新鮮なまま消費者まで届けるための徹底した管理で、品質とブランドを守っているのです。
淺井さんは、ブランド化に取り組んでから、思うようにふぐが捕れるようになるまで6〜7年は掛かったといいます。

夫婦で漁を行う淺井夫妻

そして漁は奥様と一緒に夜中の1時過ぎからで港に戻るのは夕方の5時前。 夕日が空を茜色に染めはじめた頃、淺井さんの漁船が帰ってきました。
「私は安乗に生まれ安乗に育ち、ええ海のある場所に住んだ。私は漁が好きです。生きがいである漁師を、これからもここで続けます」
志摩の冬の味覚「あのりふぐ」は漁師の知恵と努力の結晶であり、自然に恵まれた山と海が織り成す宝物だと感じました。

総料理長 樋口 宏江

1991年志摩観光ホテルに入社。2008年ベイスイート開業とともにフレンチレストラン「ラ・メール」のシェフとなる。2014年に志摩観光ホテル総料理長に就任、都ホテルズ&リゾーツ唯一の女性総料理長として活躍、2016年5月に開催された伊勢志摩サミットでワーキングディナーを担当。2017年に農林水産省料理人顕彰制度、料理マスターズブロンズ賞に女性初、三重県初の受賞。

取材日

2018年10月

旅の想い出

志摩の海女や漁師のスタミナ源、きんこ芋を生産から行い、砂糖不使用の芋密が大人な味わいのソフトクリーム。

取材協力

きんこ芋工房 上田商店
ホテルから車で約20分、約10km。

〒517-0507 三重県志摩市阿児町安乗1076-2
電話 0599-47-3517

ホームページ http://kinkoimo.com

あのりふぐ×海の幸フランス料理 〜その旨味、余すことなく〜

地域の生産者と繋がり、食を通じて地域の魅力を伝える。「海の幸フランス料理」の伝統を受け継ぎ「伊勢志摩ガストロノミー」を新たなステージへと進化させていく樋口総料理長。
今回の食材はあのりふぐ。ふぐと聞くと和食を連想しますが、フレンチのふぐ料理がどんな一皿になるのでしょうか。

あのりふぐ ア・ラ・ミニッツとアスピック せとかと虎の尾のヴィネグレット

紹介してもらったのは、冷製と温製の二品。
冷たい一皿の「あのりふぐのア・ラ・ミニッツ」ではふぐの身をサラマンダーで焼くことで程よい弾力が生まれます。ふぐの出汁の旨味とともに皮と身をゼリー寄せにして閉じ込め、セルバチコ(野生ルッコラの花)やラディッシュ、キャビアで華やかに。仕上げに南伊勢産の柑橘「せとか」の皮で、爽やかな香りをまとわせます。
〈フレンチレストラン「ラ・メール」2018年12月〜2019年2月エレガンス・アバンタージュコースにて〉

あのりふぐのパピヨット

一方、ふぐ鍋をヒントに洋風に仕上げた温製の「あのりふぐのパピヨット」は、広がる湯気とともにトリュフの香りが愉しめる仕立て。ふぐは身の弾力、白子のなめらかさを。また、白菜はシャキっとした歯ざわりと、甘みが引き出されたトロっとした二つの食感を愉しめるよう調理方法を変え、しいたけやしめじなどの野菜のおいしさとがひとつになり、深い味わいが幸せを感じる一品に。旨味の余韻は、あのりふぐの出汁とホテル伝統のチキンブイヨンが旨味の相乗効果で味に深みを出しているから。
〈フレンチレストラン「ラ・メール」2018年12月〜2019年2月 アラカルトにて〉

あのりふぐ×海の幸フランス料理

「あのりふぐはくせのない淡白な味で、火加減で微妙に変わる食感が魅力。骨からは深みと旨味の詰まった出汁が取れます。コラーゲンたっぷりの皮、白子はクリーミーな口溶けがとても美味。それぞれの部位の美味しさを生かしたいですね」と語る樋口総料理長は、メニューとしてできあがった料理の写真を生産者に送り、食材への感謝を伝える交流を続けています。
あのりふぐにはシャンパーニュ地方の厳選されたシャルドネ100%で作られる「ブランドブラン」がおすすめ。あのりふぐの繊細な味わいと合わせることで、シャンパンの深く豊かなアロマや清らかな酸味の味わいとのペアリングを愉しめます。
あのりふぐの魅力を、フレンチで余すことなく味わえる、樋口総料理長の技と、地域の生産者との繋がりが織りなす「海の幸フランス料理」です。

「和」の歓び、あのりふぐ。

あのりふぐ鍋コース

あのりふぐは旨味と身の弾力を鍋で愉しみ、旨味を閉じ込めた唐揚げ、食通が好む白子は焼きまたは鍋でとろける食感を堪能。美しく透けるてっさは絶妙な歯ざわり。ふぐ鍋は旨味が詰まった雑炊でしめるのが定番。
「ふぐは食感や歯ごたえも美味しさのひとつです。身、外皮、身皮とそれぞれに最適な火の通し方が異なるので、料理人の腕が試されます」と塚原和食料理長。地元志摩の新鮮な天然トラフグ「あのりふぐ」の魅力を知る和食の歓び。
〈和食「浜木綿」2018年12月~2019年2月・あのりふぐ鍋コースにて〉

取材日

2018年10月

志摩観光ホテル季刊誌「志摩時間」

伊勢志摩の地は、ゆるやかな時間の流れに合わせて、表情を少しずつ変えながら、四季折々の味覚や色彩を私たちに届けてくれます。
そんな季節の移ろいとともに、志摩観光ホテル季刊誌「志摩時間」では、地元の文化や豊かな自然などを通じて、伊勢志摩の四季をご紹介しています。