伊勢志摩 山里の恵み〈vol.2〉
耕作放棄地から人の笑顔を作り出す。
志摩時間 2019年秋号より
草木香る風に小麦が揺れる。そんな度会郡(わたらいぐん)南伊勢町河内地区は人口約200名が暮らし、一時は高齢化の影響で耕作放棄地だらけに。ここに生まれ育ち立ち上がった青年がいます。
島田さんと樋口総料理長、小麦畑にて
「小さい頃に見た田園が広がる田舎の風景が心に残っていて、何とかしたいと思っていました。でも、稲作用の水路は壊れていて。ある時、地元の人から『昔は麦踏みをしていた』と聞き、小麦畑なら水路がなくてもできると思ったんです」と話すのは小麦販売mellow代表の島田大輔さん。
小麦畑は獣害対策用のフェンスで囲まれている
たわわに実った小麦の品種は南伊勢の気候にも合っているニシノカオリ。島田さんの小麦は純強力粉でカンパーニュやバゲットなどのパンに向きます。
収穫が少なくても安全で品質の良いものを作りたいと、この畑では除草剤を使わず、化学肥料も控えた方法で約4年前から小麦の生産を開始。しかし初年度は失敗に。「苗を1㎝深く植えるだけで育たなかったり、鹿に麦を食べられてしまうこともありました。自然との戦いです」。種まきから約半年後、小麦の収穫は梅雨の時期と重なります。雨が降れば収穫はできず、短い晴れ間を利用して約2週間で収穫。
温度や湿度などにより自社の製粉機で時間やスピードを調整
そんな手塩にかけた小麦は乾燥させ不純物を取り除き、検査機関の規準をクリアした後、自社で製粉して袋詰め。その工程を島田さんは一人で行います。
「注文してから製粉してくれるので味がしっかりしていて、香り高いのが嬉しいですね」と樋口総料理長。島田さんの小麦粉は三重県が定める制度『みえの安心食材』に認定されています。「ここには近くの山(藤坂峠)から養分豊富な水が流れています。土作りをするときにその水を使うことで地力が上がるんです」と語る島田さん。夢は一面に広がる小麦畑を作ること。そんな挑戦を続ける島田さんの原動力を聞くと「何よりこの風景が好きだから」と小麦畑のある景色を眺めました。
「生まれ育った地元の耕作放棄地を豊かな小麦畑に変えようという島田さんの想いを知ったとき、私にも力になれることはないかと強く心を動かされました。地域への想いが込められた小麦を調理してお客様に届ける。ホテルでそんな循環を作りたいです」と樋口総料理長は想いを語りました。地域に広がる生産者との繋がりは、食す人の笑顔を作っています。
島田さんの南伊勢産小麦粉を使い焼き上げたパン
こだわり素材のホテルパンをご自宅で。
長年のファンも多い志摩観光ホテルのパンに新しいラインアップが登場。南伊勢の自然豊かな土地で島田さんが育てた小麦粉を使い、くるみやレーズン、ドライフルーツなどを生地に加え、香り豊かに焼き上げたカンパーニュは天然酵母を使い石焼きオーブンで焼き上げることで、噛むほどに広がる小麦の味わいともちっとした食感が愉しめます。
またホテルの朝食でも提供しているバタールなど、ご宿泊のお客様にも人気のホテル定番のパンの多くは基本のレシピを受け継ぎ、温度や湿度を管理しながら焼き上げる変わらぬ美味しさ。
他にもメロンパンやあんパンをはじめ、自家製のルーを使用したカレーパンなど、どれもファンの多い一品。
生地の半分以上にバターを使用したデニッシュは、人気のチョコレートやシナモンに加え、栗やいちごなどの季節毎の味もお愉しみいただけます。
- 場所
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ザ クラシック1階 ショップ 8:00~20:00
- 焼き上がり目安
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デニッシュ・菓子パン 8:00頃
食パン・ハードロール 9:00頃
- ご案内
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ご予約も承ります。販売数に達し次第終了。
- 取材日
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2019年3月
志摩観光ホテル季刊誌「志摩時間」
伊勢志摩の地は、ゆるやかな時間の流れに合わせて、表情を少しずつ変えながら、四季折々の味覚や色彩を私たちに届けてくれます。
そんな季節の移ろいとともに、志摩観光ホテル季刊誌「志摩時間」では、地元の文化や豊かな自然などを通じて、伊勢志摩の四季をご紹介しています。