リアス海岸

モコモコとギザギザ

2019年春号より

夫婦岩で有名な伊勢市の二見浦辺りから南下し東紀州地方にある熊野市の世界遺産鬼ヶ城辺りまでリアス海岸が続く三重県。リアス海岸と聞くと、断崖絶壁の険しい陸地が海に突き出しているイメージですが、志摩市の横山展望台から眺める英虞湾は陸地が低いため開放感のある独特な景観。広い空に青い海と森の緑の色彩。複雑な地形が織り成す景観は、観る人に感動を与える不思議な世界観があります。

伊勢湾の出口にある志摩半島。そこでは代表的な伊勢海老や鮑をはじめ、様々な魚介類が捕れます。またリアス海岸に浮かぶ島では、常緑広葉樹の木々が自生し、潮風に強く日本の暖かい地域の海岸林に育つウバメガシが多いのも特徴。ウバメガシは質の良い備長炭の原料で、かつお節を作る際の燃料でもあります。このことから志摩市には昔ながらの製法を守るかつお節屋が現存しています。今回は志摩のリアス海岸に繋がりを持つプロフェッショナルを訪ね、郷土の魅力をお伝えします。

複雑なリアス海岸。その正体とは。

ホテルから車で約15分、英虞湾が一望できミシュラングリーンガイドジャポンにも選ばれた横山展望台を、皇學館大学(伊勢市)の准教授であり地理学博士の近藤玲介先生と訪れました。ところで先生、英虞湾の景色はなぜ美しいのでしょうか。

英虞湾を背景にリアス海岸の解説をする近藤先生

「空が広いというのもあるでしょうね。美しいと感じるのはなぜか。私は学生にも『なぜだと思う?』といつも聞くんですよ。学び、考え、自分で感じることが大切なんです」まずは複雑なリアス海岸の地形について教えていただきました。リアス海岸の成り立ちは地球の表面を覆いゆっくりと動き続けているプレートが関係しています。日本列島にある4つのプレートの内、フィリピン海プレートとユーラシアプレートが重なる場所で太平洋側の境界に海溝があります。砂や泥やサンゴの死骸などが長い年月をかけてミルフィーユ状の水平な縞々の地層として蓄積され、海底のプレートの動きで日本列島の方向に運ばれます。海のプレートが海溝に沈み込む際、堆積物の上に載っていた地層が剥がされ、プレートに押され縦に隆起し、リアス海岸のもとになります。ミルフィーユ状の地層は年月とともにやわらかい部分だけが風化していくため、ギザギザとした地形に変化していきます。それが複雑なリアス海岸になった理由です。

縦に縞々の地層の岩を見ることができる志摩半島のリアス海岸

確かに志摩市近郊の沿岸部では斜めや縦に縞々と重なった地層を多く見ることができ、プレートの動きによって隆起し押し出された証拠だと納得。独特な地形の正体がわかったところで、続いてリアス海岸に浮かぶ島々について教えていただきました。

ブロッコリーのようなやわらかなシルエットの島の正体はウバメガシなどの常緑広葉樹の森。ウバメガシは他の植物が生えにくい海岸沿いなどでも自生し、比較的温暖な気候でゆっくりと育つ木です。
「この地域は南西日本の太平洋側の温暖なところに生える樹木帯の北限に近いだけではなく、奈良県と三重県の県境にある大台ヶ原の山脈地帯は、日本列島の寒いところの樹木帯の南限という両方の特徴を合わせ持ちます。そして伊勢志摩は日本最大級の断層である中央構造線の上に位置します。さらにリアス海岸や黒潮など、この地域は地質、地形、気候、植物の持つ多様性の交差点のような地域です。日本の中でもかなり個性的であり、世界的にも珍しい地域だと言えます」近藤先生のお話を聞いていると、地球が織り成す奇跡の重なりが美しい景観を作り出すのだと感じました。

近藤 玲介 先生

地理学博士。皇學館大学 教育開発センター 准教授。三重大学 生物資源学部 リサーチフェロー(客員研究員)。日本大学 文理学部 非常勤講師。東京大学 大気海洋研修所 柏地区共同利用研究員。研究分野は第四紀学、自然地理学、ルミネッセンス年代測定学、発達史地形学。

旅の想い出

横山展望台で英虞湾の絶景を眺めながら愉しめるカフェ。人気の志摩ソフトクリームやコーヒーや軽食など、伊勢志摩素材を中心に使ったメニューがあります。

取材協力

横山展望台 横山天空カフェテラス ミラドール志摩
ホテルから車で約15分、約6km。
〒517-0501 三重県志摩市阿児町鵜方875-20
ホームページ http://mirador.puebloamigo.jp

取材日

2018年12月