北勢〈vol.1〉伊勢茶を巡る

伊勢茶を巡る、こだわり談議。

2019年夏号より

三重県北部の北勢地区は西に鈴鹿山脈、東は伊勢湾を望み、古くからお茶の産地であり全国第3位のお茶どころ。また、四日市萬古焼などの伝統産業も盛んです。県内で生産されるお茶は伊勢茶と呼ばれ、その中でも玉露のように収穫の直前、黒い覆いを被せて栽培する「かぶせ茶」の生産量は全国第1位を誇ります。

今回は歴史あるお茶づくりの現場や、萬古焼の窯元を訪ね、伝統を守りながら新しい息吹きをもたらす、それぞれのプロの目線を追いました。

スタッフの皆さんと、水沢の茶畑にて。

鈴鹿山脈の麓に広大な茶園地帯が広がる四日市市水沢町(すいざわ)は、標高約300メートル程に位置する自然豊かな場所。ホテルで提供しているお茶を取り扱う「お伊勢参り本舗」を訪ね、社長の堤 弘佳さんと兄であり同系列会社まるゑいの社長、堤 淑明さんにお話を聞きました。

スタッフの皆さんと、水沢の茶畑にて。

(左)堤 淑明さん、(右)堤 弘佳さん

まずは良質なお茶が育つ水沢の環境とは?「降水量が多く山が水分を保ち、そこからの伏流水が豊富です。土と石が混ざった礫という水はけがよい土壌もお茶づくりに適しています」と弘佳さん。「千年近い歴史を持つ水沢のお茶は、唐から空海によって伝えられ、当時は薬として使われたともいわれています。お茶は天候や作り手によって毎年味の個性が違うんです。ワインと近いものがありますね」と淑明さん。

お茶の香りが広がる製茶工場

続いて近くの製茶工場を特別に見せていただくことに。中は衛生管理が徹底されておりお茶の香りと、茶葉を選別する機械からのモーター音が響く広々とした空間。工場長の平島哲朗さんに茶葉になる行程を案内いただきました。

平島工場長(左)による茶葉になる工程案内

茶葉の大きさを揃えるために徐々に目を細かくしながら何度も振るいにかけます。その他にも様々な方法で茶葉を選別することで良質なお茶が作られます。「お茶の葉の特長を見極めながら蒸し、揉み、乾燥、焙烙などを加えることでバランスの良い味を作り出すことができます。技術と経験が大事です」と、工場長のこだわりが伝わりました。

一方、販売を手がける弘佳さんは、お茶の健康成分に着目し、お茶の木の全品種を研究して緑茶と同じ茶葉から和紅茶を作る取り組みや、お茶にスパイスを合わせた新しい味の研究を行うなどお茶の愉しみ方を広げる活動をしています。素材を最高の状態にすること、また時代に合わせたお茶を提案する取り組みを知ることで、料理やワインのプロも刺激を受けたようです。

香りに注目する杉原シェフソムリエ

香りに注目した杉原シェフソムリエは、「玉露は、青のりに近い香りがします。山の幸であるお茶と、海の幸との香りの同調も愉しめそう。香ばしく調理した魚に同じ香ばしさを感じるほうじ茶を合わせることで新たなマリアージュが生まれますね」と、早速イメージが膨らんだ様子。伊勢茶を使った料理にも積極的に取り組んでいる樋口総料理長は「以前お茶の葉をそのまま取り込むと体によいとお聞きしました。例えば胡椒のように、削り立てのお茶をふりかける料理も良いですね」とアイデアを。「歯ざわりを残すならミルがおすすめ」と淑明さんも提案します。和食の塚原料理長も「かぶせ茶には出汁のような旨みを感じますね。お吸い物と組み合わせると新しい味を作れそうです」と、共鳴を語りました。料理、ワイン、お茶が掛け合わさり新しい愉しみの可能性が広がりました。

総料理長 樋口 宏江

1991年志摩観光ホテルに入社。2008年ベイスイート開業とともにフレンチレストラン「ラ・メール」のシェフとなる。2014年に志摩観光ホテル総料理長に就任、2016年伊勢志摩サミットでワーキングディナーを担当。2017年に農林水産省料理人顕彰制度、料理マスターズブロンズ賞に女性初、三重県初の受賞。

和食料理長 塚原 巨司

1986年博多都ホテル入社。和食「四季亭」、1987年都ホテル大阪(現シェラトン都ホテル大阪)日本料理「都」、「うえまち」で研鑽を積み、2015年、志摩観光ホテル和食「浜木綿」料理長に就任。2016年伊勢志摩サミットにて和食料理の提供に携わる。

シェフソムリエ 杉原 正彦

1987年に現在のウェスティン都ホテル京都に入社。2011年全日本最優秀ソムリエコンクールセミファイナリスト。第10回フランスワイン&スピリッツソムリエ最優秀コンクールベスト10など数々のコンクールで入賞。伊勢志摩サミットでは、日本ワイン選考委員会のメンバーであり、サービス責任者も担当。

取材日

2019年3月