未来へ繋ぐ漁業のかたち

良質な伊勢まだいが育つ、熊野灘のリアス海岸

志摩時間 2020年夏号より

ホテルから車で約1時間の場所にある南伊勢町阿曽浦(あそうら)では真鯛やあっぱ貝(檜扇貝・ひおうぎがい)などの養殖が行われています。そのなかでも三重県産の特産物をエサに使用した真鯛で地域ブランド魚「伊勢まだい」の養殖が盛んです。

熊野灘沿岸の約80㎞にわたり点在する養殖漁業者14軒が集まり、三重県や三重大学などと一致団結して立ち上げたプロジェクトから生まれた「伊勢まだい」。年間を通じた出荷体制の確立、飼育数や環境の記録、さらに品質チェックなど約9年を掛けてブランド化され今も改良が行われています。そこには進化を続ける漁業のかたちがありました。

養殖漁業について話す松田さんと樋口総料理長

三重県の養殖漁業について研究や助言をしている県水産研究所 尾鷲研究室長の松田 浩一さんに、熊野灘が真鯛の養殖に適している理由についてお話を聞きました。「リアス海岸にある多くの湾は入り組んでおり、沖からの波が届きにくく台風などでも荒れることが少ないという天候上の利点があります。海中もまた陸地と同様に複雑な形となっているため水深が深く漁場の水質や水温も比較的安定し、養殖漁業に適した魚にとっても居心地が良い環境になっていると思います。また伊勢志摩国立公園の山が風を遮り、波が穏やかなため作業性もよく、魚を丁寧に育てることができます」。水産研究所では漁業者と共に試行錯誤を重ねながら「伊勢まだい」の品質向上につなげています。

橋本さんから説明を受ける樋口総料理長と塚原和食総料理長

水産研究所と共に真鯛の研究を行う三重県海水養魚協議会会長でお魚マイスターでもある橋本 純さん(友栄水産)を訪ね生産現場を案内してもらいました。「伊勢まだい」は、県内で生産しているお茶、柑橘、海藻を粉末にしてエサに加えることで身の余分な脂が少なくなり、鮮度を保つ期間が長くなることが明らかになっています。

樋口総料理長が「何を食べて育つかは大切ですね。質を追求して育てるため他にどんなこだわりがありますか」と尋ねると、橋本さんは「出荷する2週間前であればエサを変え、味や身質をコントロールすることができる点が天然との違いです。私はよく『人が食すために育て上げる真鯛』と表現しています。例えばお茶の配合を多くすれば身の脂分をさらに抑えられたり、柑橘を多く与えた真鯛は、ほんのり柑橘の香りがするんですよ」と、真鯛養殖の可能性を語ってくれました。

時代とともに進化する漁業のかたち。

漁船から真鯛の養殖筏を見学する村瀬さん(左)と浅川さん(右)

橋本さんは養殖筏の中に真鯛を密集させず、天然魚のように泳げる広さを確保することで運動量を上げ、身の質もより天然に近づけています。魚にストレスを与えない育て方も、良質の食材にするためには必要だと語ります。この日は両総料理長に加え若い料理人、サービススタッフも参加、それぞれの視点から質問や感想が次々と橋本さんに寄せられました。

養殖筏ごと港に移動して真鯛の出荷準備を行う様子

港では伊勢まだいの水揚げを見学。身体に傷が付かないように一尾ずつ仕切りの中に入れ、生きた状態で出荷をしています。塚原和食総料理長は「伊勢まだいは見た目がきれい。その理由がここへ来てよく分かりました。天然に近い環境で育てられているからヒレの形や大きさがしっかりとしていて美しいのですね。目でも味わう和食では姿形も大切な要素です」。樋口総料理長は「漁業関係者の方からは、近海の天然魚が減っていると聞きます。それは料理人にも直結する問題です。海の資源のことを考え、養殖と天然のどちらの良さも料理に活かしながら、それぞれの食材の持つ背景や生産者の想いをサービススタッフとも共有し、その魅力をお客様にお伝えできるようこれからも皆で学び続けていきたいです」。

県と取り組んだエサの研究は真鯛の身質を飛躍的に向上させ、離れた各地の生産者の養殖方法を統一。さらに生産量や品質管理のIT化など「進化する漁業のかたち」が、地域を代表するブランド魚「伊勢まだい」を作り上げています。

左から橋本さん、塚原和食総料理長、樋口総料理長

総料理長 樋口 宏江

1991年志摩観光ホテルに入社。2008年ベイスイート開業とともにフレンチレストラン「ラ・メール」のシェフとなる。2014年に志摩観光ホテル総料理長に就任、2016年伊勢志摩サミットでワーキングディナーを担当。2017年に農林水産省料理人顕彰制度、料理マスターズブロンズ賞に女性初、三重県初の受賞。

和食総料理長 塚原 巨司

1986年博多都ホテル入社。和食「四季亭」、1987年都ホテル大阪(現シェラトン都ホテル大阪)日本料理「都」、「うえまち」で研鑽を積む。2016年伊勢志摩サミットにて和食料理の提供に携わる。2019年、志摩観光ホテル和食総料理長に就任。

取材日

2020年4月

身はふっくらと、香り華やかに。「伊勢まだいのパピヨット」

個体差が少なく、安定した味になる養殖魚の良さを持つ「伊勢まだい」は与えるエサにもこだわり、大切に育てられています。真鯛が食べている三重の柑橘と海藻をイメージして、乾燥させた柑橘の皮と海藻の粉末を加えたバターを使い、包み焼き(パピヨット)に。真鯛のアラから取ったブイヨンにハマグリと鮑のジュを合わせることで、味にコクと深みが加わります。さっぱりとした真鯛の身に、海藻バターのコクが味のバランスを整え、磯の風味も加わります。さらにドライトマトで味のアクセントと旨味をプラスしました。
オーブンから取り出し、お客様の前で包みを開ければ、磯の豊かな香りが広がります。ふっくらと蒸し上がった「伊勢まだい」に様々な味わいが重なり合う一品です。

<2020年6月〜2020年8月のアラカルトメニューでご用意>
「伊勢まだいのパピヨット」
お一人様 ¥4,300 (¥5,203)

フレンチレストラン「ラ・メール

ザ ベイスイート5F
ランチ  11:30-14:30(13:00までのご入店/貸切のみ)
ディナー 17:30-22:30(L.O.20:30)

「伊勢まだい」を和食の技で愉しむ

広い筏で存分に動き回ることで天然に近い味わいと美しい姿形が特徴の「伊勢まだい」の魅力を活かした一皿です。
長いヒレは、あら炊きにすることで見た目の美しさを表現。ヒレ下の「カマ」の部分は脂が乗り、ほろっと崩れる程の柔らかな身には酒、醤油、みりんで炊いた甘辛い味がよく合います。お造りは皮目を湯引きして残すことであっさりと上品な味、氷水で締めることで弾力のある身と歯ごたえのある皮の食感も愉しめます。焼物は伊勢志摩備長炭で塩焼きにし、白身魚らしい味わいをシンプルに。強火で焼き上げ皮はパリっと香ばしく、身はふっくらと旨味を閉じ込めます。
伊勢まだいの持つ美味しさを、様々な調理法で味わえるよう仕上げました。

<2020年6月〜8月の単品メニューでご用意>
「伊勢まだいを一皿に」
お一人様 ¥4,300 (¥5,203)

和食「浜木綿」

ザ ベイスイート4F
ご昼食 11:30-14:30 (13:00までのご入店/貸切のみ)
ご夕食 17:30-22:30 (L.O.20:30)

ラ・メール ザ クラシック  ガスエビのタルタル、伊勢まだい包み。

7月から8月の「セゾンラ・メール」では「伊勢まだい」を使ったメニューが登場です。
伊勢まだいはマリネすることで適度に水分が抜け、身はしっとりとした食感になり旨味、甘味が凝縮されます。刻んだ伊勢たくあんを加えた東紀州産ガスエビのタルタルを包み食感の違いと味わいの複雑さをまとめる、懐の深い味を感じることができます。

さらにビネガーの酸味、スパイスの香り、アンチョビで味付けしたパスタの一種クスクスを合わせて。ホタテのペーストに、竹炭を練り込んだチップを添え、色彩の遊び心も加えました。どんな食材とも相性良く仕上がり、様々なジャンルの料理に使われる真鯛の良さが引き立つ料理です。

セゾン ラ・メール<2020年7月〜8月>
時 間 11:30〜14:30 (L.O.14:00)
料 金 お一人様 ¥12,700 (¥15,367)

レストラン「ラ・メール ザ クラシック」

ザ クラシック1F
ランチ  11:30-14:30(L.O.14:00)
ディナー 17:30-22:30(L.O.20:30)

志摩観光ホテル季刊誌「志摩時間」

伊勢志摩の地は、ゆるやかな時間の流れに合わせて、表情を少しずつ変えながら、四季折々の味覚や色彩を私たちに届けてくれます。
そんな季節の移ろいとともに、志摩観光ホテル季刊誌「志摩時間」では、地元の文化や豊かな自然などを通じて、伊勢志摩の四季をご紹介しています。