たくさん食べて健やかに育てる

たくさん食べて健やかに育てる

志摩時間 2020年冬号より

三重県の西部にある伊賀地方は、鈴鹿山脈や布引(ぬのびき)山地など四方を山に囲まれ豊富な伏流水に恵まれ、米作りが盛んな地域です。また冬は寒く夏は暑い盆地の気候を活かした酒造りや伊賀牛の産地でもあり、その歴史は古く、鎌倉時代の国内牛に関する書物「国牛十図」にも伊賀牛の名が残されています。山間の町でもある伊賀では、昔から牛肉が貴重なタンパク源でした。今でも地元で食されていて、市民一人当たりの和牛消費量は全国平均の約3倍。冠婚葬祭にも伊賀牛のすき焼きが振る舞われるなど、牛肉を食す文化が根付いています。

今回、伊賀地方で最大となる年間約300頭を出荷している中林牧場を訪ね、幻の和牛とも称される伊賀牛の魅力や地域内での生産と消費の独特な仕組みが残る暮らしをお伝えします。

たくさん食べて健やかに育てる

左から塚原和食総料理長、杉原シェフソムリエ、樋口総料理長、牧場を営む3代目のご夫妻と2代目のご夫妻

伊賀盆地の自然豊かな山々に囲まれた中林牧場の牛舎は天井が高く風通しの良い、木でできた温かい雰囲気。ここでは2代目の中林正悦(まさよし)さんと息子の真一郎さんが中心となり牧場を経営しています。

伊賀牛は昭和30年代まで田んぼの農耕用として農家が飼っていた黒毛の雌牛をルーツとするブランド和牛で、血統、肥育期間、黒毛和牛の未出産の雌であることなど条件が定められています。加えて中林牧場では味を左右する重要なポイントが、牛の蹄(ひづめ)を整える削蹄(さくてい)だと正悦さんは話します。「牛は800㎏にまで育ち、約200㎏を1本の足で支えるため、蹄(ひづめ)の手入れは身体全体の筋肉バランスを整えることにもつながります。こまめに削蹄(さくてい)し、良い姿勢を維持しながら20〜22ヶ月をかけて牛を健康的に育て上げることで繊細な筋繊維の肉になります」。

牛の飼育に適した自然環境の伊賀盆地

牛の飼育に適した自然環境の伊賀盆地

また牛は暑さが苦手ですが、盆地の夏の朝は気温が下がるため牛の体力が回復して、エサをよく食べてくれることや、山のミネラル分を多く含んだ水を与えるなど伊賀の恵まれた風土は牛を育てるのに適しているそうです。樋口総料理長は「こだわりのある生産者さんにお話を伺うと、エサと水の話になることが多いです。命が育つ源は大事ですね」。キメ細やかで良質な肉質の伊賀牛は、調理の際のアクがとても少ないそうです。塚原和食総料理長は「伊賀牛の特徴である溶けるような肉の食感はここからくるのですね。工夫と努力ならではの美味しさに納得です」と頷きました。

伊賀牛への想いを語る正悦さんと樋口総料理長

伊賀牛への想いを語る正悦さんと樋口総料理長

「ブランド和牛は、競りで一頭数百万円の値が付くこともありますが、伊賀牛は高くても150万円程」と正悦さんは話します。そのおかげで、9割以上とも言われる圧倒的な地域内消費に応えられ、地元消費者が安定的に購入できる価格帯の維持が可能となっています。また、一般的に牛は市場で競り落とされますが伊賀地域では精肉店が直接牧場を訪れ、一頭まるごと買うという珍しい購入形態が残っています。

伊賀肉の売買の時に使われる牛の出生地、肥育された場所や期間などが細かく記された伝票

伊賀肉の売買の時に使われる牛の出生地、肥育された場所や期間などが細かく記された伝票

伊賀に暮らす人の多くは、町の精肉店で牛肉を購入する習慣が今でも続いていて、地域内生産と消費の循環が生まれています。「舌の肥えた地元消費者のなかには、血統書を確認してから肉を購入するこだわり派もいます。そういう消費者に『美味しい』と言ってもらえることが、我々生産者の励みになります」。正悦さんは話を続けます。「一頭買いの伊賀牛の売買では生産者が値段を決めることができます。そこには生産者、精肉店、地元消費者が長い時間を掛けて築いた信頼関係があるからです。自分たちで値段を付ける以上は、納得してもらえる肉質を保証できなければ生産者として信頼を裏切ることになる。地域からの信頼が品質を守り、ブランドを育てているのです」。作る人、売る人、食べる人。お互いの顔が見え安心安全を保証するトレーサビリティが昔から暮らしに根付いている話を聞き、樋口総料理長は「希少価値の高い伊賀牛の魅力、そして生産者の想い。地域で大切にされてきた伝統も含め、料理を通じてお客様に伝えていきたいです」と感想を残しました。

香り高く味わい深い、伊賀牛の魅力を引き出すスープ仕立てに。チキンブイヨンに伊賀牛を加えベースを作り、根菜と一緒にスープを仕上げました。薄切りにした伊賀牛のイチボをスープで軽く煮ることで、脂の甘味が加わりさらに濃厚な味わいに。ビーツを使った鮮やかな紅色のスープにサワークリームを添え、味の変化もお愉しみください。
2021年1月・2月の「エレガンス・アバンタージュ」コースでお召し上がりいただけます。

フレンチレストラン「ラ・メール」 ザ ベイスイート5F
ランチ  11:30-14:30(13:00までのご入店/貸切のみ)
ディナー 17:30-22:30(L.O.20:30)

角切りにした伊賀牛のロース肉は、噛みしめる程に香ばしさと旨みが広がります。また、薄切りにした肉からは、口の中で溶け出す甘味ある脂の美味しさを。旬の根菜やきのこなど冬の訪れを感じる野菜とともに盛り込んだ山の恵みを、志摩産のかつおだしで包み込みました。滋味深さが染みる温かな一品です。
2020年12月~2021年2月の単品メニューでご用意いたします。

料金 お一人様 ¥5,400 (¥6,534)
和食「浜木綿」 ザ ベイスイート4F
ご昼食 11:30-14:30 (13:00までのご入店/貸切のみ)
ご夕食 17:30-22:30 (L.O.20:30)
総料理長 樋口 宏江 1991年志摩観光ホテル入社。2008年ベイスイート開業とともにフレンチレストラン「ラ・メール」のシェフとなる。2014年に志摩観光ホテル総料理長に就任、2016年伊勢志摩サミットでワーキングディナーを担当。2017年に農林水産省料理人顕彰制度、料理マスターズブロンズ賞に女性初、三重県初の受賞。
和食総料理長 塚原 巨司 1986年博多都ホテル入社。和食「四季亭」、1987年都ホテル大阪(現シェラトン都ホテル大阪)日本料理「都」、「うえまち」で研鑽を積む。2016年伊勢志摩サミットにて和食料理の提供に携わる。2019年、志摩観光ホテル和食総料理長に就任。
取材日:2020年10月

伊勢志摩の地は、ゆるやかな時間の流れに合わせて、表情を少しずつ変えながら、四季折々の味覚や色彩を私たちに届けてくれます。
そんな季節の移ろいとともに、志摩観光ホテル季刊誌「志摩時間」では、地元の文化や豊かな自然などを通じて、伊勢志摩の四季をご紹介しています。

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