未来をつくる無給餌養殖漁

世界で初めて成功したアサリの生産方法

志摩時間 2021年夏号より

鳥羽市浦村町は伊勢湾口に位置し、森などからの養分豊富な水が流れ込み、太平洋からは黒潮の力強い流れが交わる海に面しています。また県内で最も養殖牡蠣の出荷量がある産地としても知られ、春には養殖のワカメ漁も行われています。
そして近年、浦村町ではその恵まれた海の環境を活かし、自然の力でアサリを育てる養殖が成功し、環境への負荷が少ない養殖漁業として注目されています。牡蠣の殻などを再利用したこの「無給餌養殖」によるアサリの生産方法を開発し、世界で初めて成功させた浦村アサリ研究会の養殖漁師・浅尾大輔さんを訪ねました。

浅尾さんは2013年、農林水産省が農林水産の発展に貢献した人を表彰する「農林水産祭」において水産部門最高賞の「天皇杯」を最年少で受賞。海の環境に向き合いながら、持続可能な食料の生産、また過疎化や担い手不足という地域課題を新たな視点で掘り起こし、第一次産業を未来あるものにしたいと挑戦を続けています。

海の恵みを活かし、アサリの赤ちゃんの住み家をつくる。

近鉄鳥羽駅から車で20分、浦村大橋の麓にある浦村町。
浅尾さんにアサリの養殖場へと案内してもらいました。途中、健康に良い食材として注目されている海藻「アカモク」の養殖場も見学。アカモクはこれまで、漁船のスクリューに巻き付くなど厄介な海藻として扱われていましたが、浅尾さんが伊勢志摩地域で食用として商品化しました。海中から引き上げられたアカモクを食べ、その味わいに一同驚きの表情。

獲れたてのアカモクを試食する皆さん

樋口総料理長は「まるで海そのものを食べているような、ミネラルを感じます」。杉原シェフソムリエも「鮑に通じる強い磯の風味は、中部イタリアのアドリア海沿いのワインと合いますね」。

湾内にある砂浜で養殖されているアサリは、砂利と牡蠣の殻を粉砕して6〜8㍉ほどの球体に加工した「ケアシェル」を入れた袋のなかで育ち、年間約1㌧が生産されています。この養殖方法を開発した浅尾さんは「かつてこの一帯でもアサリがたくさん獲れていました。しかし温暖化による海藻の変異や、ダムの一斉放流など様々な要因が重なることで、浜は酸化してしまいました。アサリの稚貝はいるはずですが殻が弱く、沖合いから浜にたどり着いても酸性の環境では溶けてしまい育つことができないのです」。

浅尾さんは牡蠣養殖も行っているため、牡蠣の殻にアルカリ性の成分が豊富であることにも着目。その殻を利用すればアサリの住み家をつくることできると考えました。初めは袋を中心とした周囲の砂浜で育つと想定していたそうですが、袋のなかに自然とアサリの稚貝が住み着いたのです。「この方法ならアサリの赤ちゃんが袋のなかで外敵から守られ成長することができ、産業廃棄物となる牡蠣の殻の再利用にもつながる」と確信したといいます。

自然を想い、心で繋がる連携で持続可能な食を描く。

ケアシェルから取り出したアサリの話を聞く皆さん

アサリは約1年で出荷できる4㌢程まで育ち、その間春と秋に産卵をします。養殖を始めたことで砂浜は酸性から徐々にアルカリ性へと中和が進み、同時にアサリも増え続け、今ではひとつの袋で約100個を生産できるように。浅尾さんは「放っておいても袋いっぱいにアサリが育ちます」と嬉しそうに話します。「アサリが育つのに必要なものがすべてあるこの場所で作るアサリは胸を張って地元産と言えます。それから砂浜の環境が良くなったことでハマグリも獲れるようになりました。小さな砂浜で始まった取り組みが、自然の姿を再生する方法として活用されると嬉しいです」。

養殖漁師の浅尾さん

浅尾さんは自身が開発した技術を全国20道県に無償で提供し、各地で採用されています。「自然に負荷をかけるのではなく、海の恵みを活かしながら命を育て、かつ環境も良くするという発想が未来的で感動しました」と話す樋口総料理長。浅尾さんは「漁師は獲って箱詰めしたら終わりではなくて、お客さんの口に入るまでが漁業だと考えています。そのためには料理を作る人にも僕たちのメッセージを届け、伝えてもらいたい。色んな立場の人と一緒になって地域を盛り上げていきたいです」と話します。浦村町では浅尾さんの思いに共感した若手兼業漁業者の移住が増え、町にも活気が出ています。栗野料理長は「応援したくなるし、チャレンジする姿は頼もしいです。食材も積極的に使いたいと思いました」。

(左から浅尾さん、樋口総料理長、塚原和食総料理長、栗野料理長、杉原シェフソムリエ)

「持続可能」という考えには必ず未来を見つめる人の思いがあり、心で繋がることでその輪は大きく広がっていきます。自然に恵まれた伊勢志摩は、そんな明日への物語が始まっています。

総料理長 樋口 宏江

2014年に志摩観光ホテル総料理長に就任、2016年伊勢志摩サミットでワーキングディナーを担当。2017年に農林水産省料理人顕彰制度、料理マスターズブロンズ賞に女性初、三重県初の受賞。

和食総料理長 塚原 巨司

1987年都ホテル大阪(現シェラトン都ホテル大阪)日本料理「都」、「うえまち」で研鑽を積む。2016年伊勢志摩サミットにて和食料理の提供に携わる。2019年、志摩観光ホテル和食総料理長に就任。

シェフソムリエ 杉原 正彦

2011年全日本最優秀ソムリエコンクールセミファイナリストなど数々のコンクールで入賞。伊勢志摩サミットでは、日本ワイン選考委員会メンバーと飲料サービス責任者を担当。

リアン・山吹 料理長 栗野 正也

2020年志摩観光ホテル鉄板焼き山吹料理長となる。多くの現場経験を活かし、カウンターでの会話と臨場感を愉しめる鉄板焼きを提供。

総料理長がお届けする夏の一品 樋口宏江の料理ストーリー

「イサキとアサリの白ワイン蒸し」

船上から眺めた、多くの命を育む澄んだ伊勢湾に、英虞湾とは違う力強さを感じました。このお皿は素材それぞれの美味しさを掛け合わせながら深みのある味わいを目指しました。
夏が旬のイサキとアサリは白ワインで蒸し、香りを際立たせます。アサリは火入れの加減が難しい食材なので蒸すときは鍋から離れず、貝の口が開いた瞬間に取り出すことでふっくらとした食感に。蒸したアサリから出る煮汁と少量のオリーブオイル、自家製のタイムで香り付けしたソースで仕上げます。また、セミドライにして味を凝縮させた鳥羽産ミニトマトを加えることで酸味をプラス。シンプルな味付けのなかに旨味が重なり奥行きが生まれます。伊勢志摩の夏をアサリ、イサキ、トマトで奏でたひと皿です。

6月・7月の「エレガンス・アバンタージュ」コースでお召し上がりいただけます。
※入荷状況によりご用意できない日がございます。

フレンチレストラン「ラ・メール」

ザ ベイスイート5F
ランチ  11:30-14:30(13:00までのご入店/貸切のみ)
ディナー 17:30-22:30(L.O.20:30)

和食総料理長がお届けする夏の料理  塚原巨司の料理ストーリー 

「アサリと伊勢志摩の味覚、三品」

アサリを美味しくお召し上がりいただける料理を三品、調理法を変えてご用意しました。
アサリをたっぷり使った土鍋炊き込みご飯は、アサリと志摩産かつお節の出汁が米の一粒ひと粒にまで染み込み、生姜と牛蒡を加え香り良く炊き上げます。アサリの天ぷらは三重県産のあおさのりやワカメと合わせ、ふっくらとした身と豊かに広がる磯の香りを。アサリの味噌汁には鳥羽市浦村産のアカモクを加えました。他の海藻にはない、独特な粘り気のある食感と潮を感じる風味、そしてアサリの旨味が溶け込んだ赤出汁はほっとする味です。
夏の訪れとともに伊勢志摩の海が育てた滋味深い味わいをお愉しみください。

6月・7月の単品メニューでお召し上がりいただけます。
¥5,500(要予約 前日18時まで)
※入荷状況によりご用意できない日がございます。

和食「浜木綿」

ザ ベイスイート4F
ご昼食 11:30-14:30 (13:00までのご入店/貸切のみ)
ご夕食 17:30-22:30 (L.O.20:30)

鉄板焼き「山吹」・カフェ&ワインバー「リアン」 栗野正也の料理ストーリー

「アサリと伊勢海老と伊勢まだい 鉄板でのスープ仕立て」

鳥羽の海で、獲れたてのアカモクを食べたときに感じたミネラル感やアサリの旨味。伊勢志摩の海の力を感じていただけるひと皿をペアディナーでお届けします。
アサリを酒蒸しにした時に出るスープを使い、新たにアサリを蒸すことで、より濃厚な味を抽出します。鍋の蓋を開けると湯気とともに立ち上るアサリの香りが食欲をそそります。そこに伊勢海老と伊勢まだいを加え、さらに伊勢海老のアメリカンソースを合わせスープ仕立てにしました。
淡白で上品な味の伊勢まだいにスープが染み込み、伊勢海老の甘味もより濃厚に。また、海水のミネラルを含んだアサリの水分が加わることで、伊勢まだいの身はふっくらとした食感となります。伊勢志摩産の海藻も添えて、アサリを主役にしながら他の食材も引き立たせた海の恵みが味わえる一品です。

6月〜8月の三重の食材と夏の味覚ペアディナーでお召し上がりいただけます。
お二人様   ¥60,742
お一人様追加 ¥32,428

鉄板焼きレストラン「山吹」

ザ クラブ2F(要予約)
ランチ 11:30-14:30(L.O.14:00/2日前20:00まで)
ディナー17:30-22:30(L.O.20:30/前日20:00まで)

取材日

2021年5月

志摩観光ホテル季刊誌「志摩時間」

伊勢志摩の地は、ゆるやかな時間の流れに合わせて、表情を少しずつ変えながら、四季折々の味覚や色彩を私たちに届けてくれます。
そんな季節の移ろいとともに、志摩観光ホテル季刊誌「志摩時間」では、地元の文化や豊かな自然などを通じて、伊勢志摩の四季をご紹介しています。