英虞湾の恵み ヒオウギ貝
愛情の彩り
志摩時間 2025年春号より
ザ ベイスイート5F フレンチレストラン「ラ・メール」から望む、英虞湾に浮かぶヒオウギ貝の養殖筏
房総半島から南の温暖な海域に生息するヒオウギ貝は、ホタテと同じくイタヤガイ科に属し、赤、橙、黄、紫などのカラフルな貝殻が特徴です。その理由はまだ解明されていませんが、暖かな海域のサンゴが保護色として色とりどりになることと同じともいわれています。
ホテルのある志摩市では真珠養殖発祥の英虞湾(あごわん)でもヒオウギ貝が古くから獲れ、現在は食用として養殖が行われています。三重県での生産は1970年前後に起こった真珠不況をきっかけに三重県水産研究所が研究を進め、真珠の代替生産物として南伊勢町でも養殖が始まった歴史があります。
パクパクと貝殻を開くことから志摩市ではアッパ貝やバタ貝、南伊勢町ではアッパッパ貝の名で呼ばれ、美しい貝殻はアクセサリーなどに加工されています。
志摩市浜島(はまじま)町の磯笛岬展望台(いそぶえみさきてんぼうだい)にある「ツバスの鐘」では、願いを書いたヒオウギ貝の貝殻が絵馬のように飾られるなど、地元の方々にも親しまれています。
レストラン「ラ・メール」からも見える英虞湾の養殖場を樋口総料理長、塚原和食総料理長と訪ねました。
そこには穏やかな英虞湾のゆりかごの中で育つ、愛くるしい貝の姿がありました。
穏やかな海で育つ、繊細なヒオウギ貝。
さらに波などの衝撃があると育たないことから、英虞湾の内海で波が穏やかといった様々な要素がヒオウギ貝の生育に良い環境であるといえます。
ヒオウギ貝の産卵の時期は6月頃で、筏に吊るした網に卵が付着し、その後稚貝に成長します。
高橋さんは網に付いた稚貝と、英虞湾で卵を採集して人工孵化をさせる人工採苗の稚貝の両方を育てています。
「採苗から育てた貝は色鮮やかに育ち、天然物は少し茶褐色になります。また採苗するための卵の多くは、志摩観光ホテルの横にある賢島大橋の下に集まるんですよ」と教えてくれました。
稚貝は夏と秋を英虞湾で過ごします。冬は寒さに弱いため、水温が15度を下回ると海水温が高い尾鷲方面の海まで2時間掛けて船で運び、寒さをしのぐことも。
そうして冬を越え、春に英虞湾に戻した稚貝はこの時点で約半分にまで減ってしまうそうです。「稚貝の期間は特に繊細で、育てるのが難しい貝なんです」。
3月には3〜4㎝だった殻長は、9月頃になると6㎝を越え、12月初めまで成長し、冬から春にかけ出荷されます。
産地で食す、希少な美味。
ヒオウギ貝は陸に水揚げすると約1日しか命が続かず、冷蔵でも生食の賞味は2〜3日のため、ほとんどが地元で食され、地域外にはあまり出回らない食材です。
そのため、高橋さんは地元の飲食店や個人から注文が入る度に必要な分だけ水揚げし、貝殻の洗浄をして出荷しているそうです。
パクパクと口を開閉しながら泳ぐ天然のヒオウギ貝。普段は足糸を岩礁に固着させており、外敵から身を守る際に貝殻を強く閉ざします。
そのため貝柱はホタテに比べ、筋肉質でしっかりとした食感なのが特徴なのだそうです。
塚原和食総料理長は「旨味も濃厚で、G7伊勢志摩サミットのワーキングランチのお弁当では吉野煮で提供し、好評いただきました。地元の方のおすすめの食べ方はありますか」。
高橋さんは「伊勢志摩での定番は、貝殻のまま炭火で焼く『浜焼き』です。貝ヒモや肝の旨味が凝縮されて美味しいですよ。貝柱は軽く火を通すと甘さが際立ちますね。また、さっと湯がいたら貝殻から身が簡単に取れるので、私の家ではフライやシチューにたっぷり入れています」。
樋口総料理長は「真珠のふるさと、英虞湾で育つ美しいヒオウギ貝を調理できるのは、生産地ならではの喜びです。全国的に知名度はまだ低いですが、しっかりとした味わいや食感の魅力、愛らしいカラフルな色合いやフォルムもひと皿に取り入れたいですね。レストランからキラキラと輝く英虞湾の養殖場を眺めながら、どんな料理にしようかと考える時間に幸せを感じます」。
左から樋口総料理長、塚原和食総料理長、高橋さん
総料理長 樋口 宏江 | 2014年志摩観光ホテル総料理長に就任、2016年伊勢志摩サミットでワーキングディナーを担当。2017年に農林水産省料理人顕彰制度、料理マスターズブロンズ賞。2023年フランス農事功労章シュヴァリエ受章。2024年料理マスターズシルバー賞、文化庁長官表彰を受賞。 |
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和食総料理長 塚原 巨司 | 1987年都ホテル大阪(現シェラトン都ホテル大阪)日本料理「都」、「うえまち」で研鑽を積む。2016年伊勢志摩サミットにて和食料理の提供に携わる。2019年、志摩観光ホテル和食総料理長に就任。 |
リアン・山吹 料理長 栗野 正也 | 2020年志摩観光ホテル鉄板焼山吹料理長となる。多くの現場経験を活かし、カウンターでの会話と臨場感を愉しめる鉄板焼を提供。 |
総料理長がお届けする春の料理 樋口宏江の料理ストーリー
フレンチレストラン「ラ・メール」 | ザ ベイスイート5F ディナー 17:30-21:00(L.O.19:30) |
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和食総料理長がお届けする春の料理 塚原巨司の料理ストーリー
ヒオウギ貝 山椒焼き フライ 柑橘酢
志摩では身近な食材のヒオウギ貝がホテルのすぐ近くで採れることに、伊勢志摩の豊かさを感じました。今回は生産者さんのおすすめも参考に、3種の調理法でお愉しみいただきます。
山椒焼きは湯引きをした身を串に刺し、叩いて細かくした山椒、酒、醤油、味醂のタレで香ばしく焼き上げ、ふっくらとした食感に仕上げます。
漁師さんに教えていただいたヒオウギ貝のフライは、衣の中に旨味を閉じ込めることで、貝のジューシーさと旨味を。
シンプルに湯引きをした貝には、南伊勢産の季節の柑橘と酢味噌を合わせた爽やかな柑橘酢を。新鮮な貝ならではの濃厚な味を引き出します。
3月〜5月の期間にご提供する予定です。
※入荷状況により提供時期が変わる場合があります。
春の御食つ国会席
暖かさとともに豊かになる、、三重の春の海を味覚で感じるひと時。伊勢海老を中心に、春を告げるブリや貝など季節の食材をふんだんに使った春の御食つ国会席です。
春に旬を迎える三重県産ブリの脂が乗った腹身は造りや寿司でとろける食感を。黒潮に揉まれ引き締まった背の身は照り焼きで滋味深い味わいをご堪能いただけます。吸物はワカメとタケノコの若竹、ハマグリの真薯で季節を表現しました。
ヒオウギ貝はバター醤油と山椒焼きの二味焼きで異なる味覚をお愉しみください。貝尽くしの酢肴は蒸鮑、酒炒りしたサザエ、霜降りにしたヒオウギ貝を土佐酢のジュレと柑橘酢味噌でさっぱりと仕立てました。
春の御食つ国会席
3月1日(土)〜5月31日(土)
¥35,000 ※料理内容は月替わりとなります
和食「浜木綿」 | ザ ベイスイート4F ご夕食 17:30-21:00 (L.O.19:30) ご昼食 11:30-13:30 (L.O.13:00) ※ご昼食は4名様から。1週間前までのご予約制。 |
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鉄板焼「山吹」料理長がお届けする春の料理 栗野正也の料理ストーリー
鮑と檜扇(ヒオウギ)貝 あおさのスープ仕立て
滋味溢れる鮑、春に美味しさが増すヒオウギ貝やアサリ。それぞれの貝が持つ食感や香り、旨味を凝縮させたスープ仕立てのひと品です。
活鮑は殻を外し、肝を取り出して蒸し焼きに。活きた状態で身をスライスすることで、ふっくらと柔らかい食感に仕上げます。
チキンブイヨン、バター、チーズで仕上げた鈴鹿産米の焼きリゾットの上に、鮑、ヒオウギ貝の貝柱、アオサを順に乗せていきます。白ワイン、アサリ、ヒオウギ貝の貝ヒモの旨味を凝縮したスープとともに耐熱フィルムで包み、鉄板の上で熱を加えるとフィルムの中ではそれぞれの具材の旨味がスープに溶け込んでいきます。沸騰し丸く膨らんだフィルムをカットすると広がる磯の香り。
鮑やヒオウギ貝の貝柱の旨味、スープの味を含んだリゾットは濃厚な味わいです。
お客様の目の前で一つひとつの料理ができあがるライブ感とともに、伊勢志摩ならではの味覚をお届けします。
お二人様 ¥70,000
※入荷状況により提供期間が変わる場合があります。
鉄板焼レストラン「山吹」 | ザ クラブ2F(要予約) ランチ(土日限定) 11:30-13:30(L.O.13:00) ディナー 17:30-21:00(L.O.19:30/前日 20:00まで) ※水曜日定休 ※ランチは4名様から。1週間前までのご予約制。 |
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志摩観光ホテル季刊誌「志摩時間」
伊勢志摩の地は、ゆるやかな時間の流れに合わせて、表情を少しずつ変えながら、四季折々の味覚や色彩を私たちに届けてくれます。
そんな季節の移ろいとともに、志摩観光ホテル季刊誌「志摩時間」では、地元の文化や豊かな自然などを通じて、伊勢志摩の四季をご紹介しています。